湿潤な日本でさえ、乾燥が森林火災を引き起こす
日本の山火事は1960年代から増えはじめ、1970年代には年間7000〜8000件起こっていた。そのころは高度経済成長による都市への人口集中が続き、山村は過疎化で防火や消火の体制が弱体化していたのである。
その後は一貫して減少傾向にあり、2014年以降は年間1000〜1400件ほどで推移している。焼失面積は年間400〜900ヘクタールほどで、大規模な山火事は少ない。
ここ20年間に起こった100ヘクタール以上の大きな森林火災は九件あり、2017年の岩手県釜石市の413ヘクタールが最大である。したがって、先の足利市の森林火災は記録的に大きな火災の一つに挙げられる。
2019年には世界各地で大規模森林火災が発生したが、その年の日本の山火事の発生件数は長期の減少傾向の中にあって、増加するような兆候は一切認められなかった。つまり、日本の山火事は気候変動との関連は認められていない。
それでもこのように湿潤な日本でさえ、乾燥が森林火災を引き起こしている。ましてや乾燥して水の不足している地域での火災の危険はいかばかりだろう。
※本稿は、『森林に何が起きているのか――気候変動が招く崩壊の連鎖』(中公新書)の一部を再編集したものです。
『森林に何が起きているのか――気候変動が招く崩壊の連鎖』(著:吉川 賢/中公新書)
2019年、オーストラリアで史上最大級の森林火災が発生。5ヵ月間で17万平方キロメートルもの国土が焼失した。近年、温暖化の影響による森林の「異変」が世界中で観測されている。大規模火災が相次ぐのはなぜか。森林破壊がもたらす経済的影響は。豊かな自然を守るため、何をすべきなのか――。本書は、森林生態系のメカニズムから、日本の里山の持続可能な保全策まで、森林科学の知見を第一人者が解説。実効的な気候変動対策を論じる。