ツバメの雛の労働寄生

2020年6月29日朝、筆者は市川駅に近い「カラオケ昌ちゃん」のツバメの巣で、雛数を数えて思わず我が目を疑った。この巣は、これまでの観察から産卵数は4個、雛数も4羽のはずである。ところが何回数えても5羽いる。一瞬、老化の進行を疑ったくらいである。

その日、「昌ちゃん」の巣から約200m離れた「ブルームーン」の巣では、巣立ち前の雛4羽が3羽に減っていた。個体識別していないので確かな証拠はないのだが、ブルームーンから巣立った1羽が、何らかの理由で昌ちゃんの巣に潜り込んだものと推測した。

2020年7月2日、越川重治氏は大柏川ビジターセンターで、生後12日目の雛5羽のいる巣に、他の巣で巣立った1羽(A)が加わり、計6羽いることを確認した。しかも、親鳥はAを排除せず、約2時間にわたり6回も給餌したのである。

さらに7月9日にも同じ巣で、生後19日目になった雛5羽がいるところに、他の巣で巣立った2羽(B、C)が加わり、計7羽が狭い巣でひしめくのを観察した。7羽の状態は52 分続き、その間にBは1回、Cは2回の給餌を受けた。

同様に、他の巣に潜り込んで給餌を受ける事例を7月7日にも観察したという。本来給餌を受けるべき雛の餌を奪うことになることから、これを「労働寄生」(盗み寄生)と呼んでいる。

『都会の鳥の生態学――カラス、ツバメ、スズメ、水鳥、猛禽の栄枯盛衰』(著:唐沢 孝一/中公新書)