(写真・唐沢孝一)
人以外の生物にとっては棲みにくいはずの都市に、近年多くの野鳥が進出しています。東京都心や千葉県市川市を中心に、半世紀以上にわたって都市鳥を観察してきたNPO法人自然観察大学学長の唐沢孝一さんが分析した、人と鳥との関係性の変化とは。民家やビルで見られるツバメの巣。ツバメは3月から6月にかけて巣を作り、夏にかけて子育てを行いますが、その様子も以前と異なっているそうで――。

道の駅や高速道路SAの高密度繁殖

ツバメの巣は1巣ずつ分散していることが多い。1軒の家に複数が営巣する場合でも、巣と巣は離れており密集しない。ところが、営巣に適した建物が減少するにつれ、残された建物に巣が集中するようになる。また、新しく郊外に出現した「道の駅」や高速道路のサービスエリア(SA)などでは、多数のツバメが営巣し、ルーズなコロニー状になる事例が現れた。

世田谷区では、小田急沿線や田園都市線の駅や商店街などを中心に、1997年にはツバメの巣を252巣記録した。その後、2009年には143巣に減少し、2010年192巣、2011年199巣であった(野鳥ボランティアツバメ営巣委員会 2012『世田谷区内ツバメ繁殖数調査報告書(2009~2011)』世田谷トラストまちづくり)。

世田谷区のツバメで注目したいのは、巣の減少と共に、1つの建物に営巣する巣数が増加したことである。3個以上営巣する事例が2001年以前は3ヵ所、2009年7ヵ所、2010年12ヵ所、2011年15ヵ所と増加している。なかには、一つの建物で最大19巣も繁殖した事例もある。繁殖に適した建物が減少し、残された優良物件に巣が集中しコロニー状態になったと考えられる。

市川市郊外に洪水対策として造成された大柏川第一調整池緑地では、2007年6月にビジターセンターがオープンした。すると、軒下では20巣以上が繁殖するようになり、今やコロニー状態である。

軒下で集団繁殖する大柏川ビジターセンターのツバメ(千葉県市川市)。カラス対策として巣の前にはテグスが張りめぐらされている(写真・唐沢孝一)

巣は、センターの建物から長く張りだした庇の下に作られている。壁面に巣台や人工巣などが取り付けられ、テグスが何本も張りめぐらされカラスの接近を阻むなど、ツバメ保護の対策が施されている。

また、センター前には広大な湿地や草原が広がり巣材の泥や雛の餌には事欠かない。ツバメの繁殖にとっては理想的な優良物件である。

ツバメが高密度で繁殖する事例は、日本各地の「道の駅」や高速道路のSAで観察されている。埼玉県春日部市の「道の駅庄和」や東北自動車道「那須高原SA」もその一つだ。軒下で20~30巣が繁殖している。いずれも周辺には水田が広がり、餌や巣材の泥の入手には事欠かない好条件である。

人の移動や物流の中心が鉄道から車へ置き換わり、ツバメの営巣場所も「鉄道の駅」から「道の駅」や「高速道路のSA」へと移転したようである。