(イラスト:かやぬま優)
認知症は治すのが難しい病という印象をもつ人も多いけれど、医療は日進月歩。治療や予防の未来は変わりつつあるようだ(イラスト:かやぬま優)

進行を抑制する新薬日本での承認目指す

日本では現在、4種類の認知症治療薬が承認されている。いずれも症状の緩和を目的とした対症療法薬で、認知症の原因に直接働きかける根治薬ではない。

そんななか、2023年1月にアルツハイマー病の新薬「レカネマブ」が米国で迅速承認された。認知症の原因となる物質と結合することで、体に異物だと認識させ免疫反応で除去する、まったく新しい働きをもつ薬だ。日本でも、今年中の承認を目指して審査が進められている。

認知症の約7割を占めるアルツハイマー病は、「アミロイドβ」という異常たんぱく質が脳内に蓄積され、神経細胞にダメージを与えるために起きるとされる。その根本的な原因にアプローチする薬として、21年6月に「アデュカヌマブ」が米国で迅速承認されたものの、日本では承認に至らなかった。

これに対してレカネマブは、有効性、安全性ともに一定の評価を得ている。治験では、アルツハイマー病の早期患者約1800人を、2週間に1回レカネマブを点滴するグループと偽薬を点滴するグループに分けて比較。

18ヵ月後に認知機能を評価した結果、レカネマブを投与したグループの症状悪化スピードが偽薬のグループに比べて27%遅くなったことがわかった。さらに、脳内に蓄積されたアミロイドβも減少したという。

順天堂大学医学部名誉教授でアルツクリニック東京院長の新井平伊先生は、「効果はそれほど高くありませんが、アデュカヌマブと違ってしっかりしたエビデンスがあり、副作用も比較的少ないと思います。アミロイドβを減らす薬が出てきたことは、人類が月面着陸した時くらいのインパクト。ほかの製薬会社も開発に取り組んでいるので、今後さらに効果の高い薬が出てくれば、認知症の発症を抑えられる時代が来るかもしれない。この薬がその第一歩になるのでは」と話す。

ただ、病気が進行して障害を受けた神経細胞の修復はできない。そのため、できるだけ早い段階での投薬が不可欠だ。とはいえ認知症はいまだ早期発見が難しく、アミロイドβの蓄積の有無を診断するアミロイドPET検査は、費用が高額で手軽に受けにくいという問題がある。

さらに、脳の血管周辺に起こるむくみや微小出血などの副作用をチェックするには、MRI検査の受診も不可欠だ。

また、現時点ではレカネマブ自体が非常に高額という難点も。米国では承認から2ヵ月後に米退役軍人保健局(VHA)が保険適用を開始したが、日本でも健康保険が適用されるかどうか、今後の動向から目が離せない。