国の認知症施策に「予防」が追加

19年、認知症に関する国の施策の指針となる「認知症施策推進大綱」で、「共生」と「予防」を車の両輪とすることが示された。過去のオレンジプラン、新オレンジプランでは「共生」のみだったので、大きな変化だ。

これを受け、予防に向けた取り組みが全国各地で進められている。新井先生が21年4月、東京・四谷にオープンした「健脳カフェ」もそのひとつだ。

「認知症を発症した人が集う場はすでにありますが、今後は未病(※)の段階からケアを始める場が必要。そこで健脳カフェでは、大学や企業などの協力を得て運動教室や栄養教室、認知症予防に役立つ情報提供を行うほか、来場者同士が交流できる談話コーナーを設けました。カフェには専門医も常駐しています」

(※ここで言う未病とは、健常者、MCIを含む認知症発症前の状態)

さらに22年11月には、「オンライン健脳カフェ」も開設。全国どこからでもネットでつながり、コンテンツの視聴やライブでの体験が可能になった。

「予防のために運動しましょう、人と交流しましょうとアドバイスしても、なかなか時間も機会もない。自治体からも、イベントを企画しても参加者が集まらない、という悩みを耳にします。自宅から気軽にオンラインで参加できるしくみを作れば、認知症予防・未病の先制医療の拠点になりうるでしょう」

25年には65歳以上の5人に1人が認知症になると言われると、不安を覚えるかもしれない。しかし、「これからは認知症を迎え撃つ時代になる」と新井先生は言う。

医療は進歩し続けている。病をむやみに恐れるのではなく、信頼のおける情報を敏感にキャッチしながら、今を前向きに過ごすことが大切だ。