役づくりは毎回難しいですが、今回の役も新たな挑戦。「ナイトクラブの花形スターで、強い意志を持つ女性」という部分は、トップスターだった頃の記憶をたどれば感覚的にわかります。難しいのは、なぜそこまで彼女が強くなったのかという〈見えない部分〉を押さえなければならないこと。
本作では彼女の心の奥底はずっと明かされず、最後の最後に本心がわかります。恋人との愛、仲間たちへの愛、ムーラン・ルージュという劇場への愛……。いろいろな愛が、彼女を動かし、輝かせる。
井上芳雄さんと甲斐翔真さんがWキャストで演じるアメリカ人作曲家と、パトロンの公爵との間で揺れ動く三角関係も含め、これまでの役とは違うアプローチが必要だと、痛感しているところです。
初日のカーテンコールが忘れられない
そもそも私が宝塚音楽学校を受験したのは、高校2年の時。中卒での受験も考えたのですが、「15歳で自分の人生を決めていいんだろうか」という気持ちもあって……。ハッキリ変わったのは2年後。月組公演『LUNA/BLUE・MOON・BLUE』を観て、「なぜ私はあの舞台に立っていないんだろう」と強く感じたんです。
トップの真琴つばささんの下、紫吹淳さんや大和悠河さんなど魅力的な方々がひしめいていて、「中卒で受験していたら、私もあの端っこにいたかもしれないのに」と後悔しました。だからその年に受験して、合格した時は嬉しかったですね。
花組に配属され、がむしゃらに日々を過ごすなか、最初の葛藤は20代後半に訪れました。友人たちが次々に結婚・出産していって、「このままでいいのか」と焦る気持ちが私にも。ほかにすることがあるんじゃないか……という漠然とした不安が生まれました。
占いはあまり信じないタイプなのに、よく当たるという占い師さんを訪ねたことも。「このままで大丈夫でしょうか」と聞いたら、答えは、「30歳で転機が、32歳で婚期が来るから、もう少し劇団にいなさい」。じゃあ信じて頑張ろうかと。