そうこうするうちに、本公演で初めて大きな役が回ってきました。『オーシャンズ11』のテリー・ベネディクト、ラスベガスの冷酷なホテル王の役です。トップスターの蘭寿とむさんに対峙する、重要な役どころ。
自分の力をすべて出し切るほどのエネルギーで演じないといけないのですが、当時は出し切るすべを知りません。演出の小池修一郎先生にたくさんご指導いただき、毎日が本当に必死でした。「今日は無事に帰れるかな」と思いながら稽古場に通っていました。
それだけに、初日のカーテンコールは忘れられません。割れるようなお客様の拍手を聞きながら、震えるほど嬉しかったのを覚えています。気づけば占い師さんに言われた30歳も32歳も過ぎて(笑)。いつしか「できるところまでいってみよう」という気持ちに変わっていました。
外側だけ作り上げてもしょうがない
もうひとつのターニングポイントは、入団12年目で雪組に組替えになったこと。組が違えば作品の傾向も変わります。『星逢一夜(ほしあいひとよ)』では、演出の上田久美子先生に、相手を感じて動くことの大切さを教えていただきました。お芝居で心を通わせる面白さを知ったのもこの頃です。
翌年主演した演目『ドン・ジュアン』も大きかったですね。私が演じたドン・ジュアンは、酒と女が好きな、どうしようもない男。そんな人間をどう演じればいいのか悩んだ時、外側だけ作り上げてもしょうがないと気づきました。
もっと目に見えないもの、例えば相手のふところに入り込む魅力とか、女性が無性に惹かれてしまう吸引力とか、そういうところを表現していくべきだなって。その時に掴んだ、見えないものを意識する演じ方は今も変わりません。
その後、トップスターになり、たくさんの作品に恵まれ、2021年に宝塚を退団しました。実は、『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』のオーディションは、退団からそんなに経っていない頃に受けたんです。
オーディションが初めてなだけでなく、女性ってなんだろう?というところからのスタートで(笑)。歌とお芝居とダンスをお見せしたのですが、男役の香りが強く残っていたはず。でもあの時の奮闘があったから、その後の舞台の世界にすっと入っていけました。