2つの報告の結果が異なる理由

まず、ある研究をご紹介しましょう。子どもの時にADHDと診断された人が、大人まで持続するかどうかを決める要因が何か、ということを調べた研究です。

その結果、ADHDの症状が重篤であったり、うつ病や行動上の問題を伴ったりしていて、医療的な支援を必要とする子どもは大人まで持続する人が多いという結果でした。このことは、私たちのような医師が出会う医療を受けている子どもは、大人まで症状が持続することが多いということを意味します。

他の精神疾患によるADHD様の症状を除外して生育歴をきちんと評価しなければ、ADHDを過剰診断してしまう可能性があるのです(写真提供:Photo AC)

2つの報告の結果の違いは、対象の違いによって起こるのです。医療機関でADHDと診断される人を対象にすれば、症状の重い子どもや併存する精神疾患や行動上の問題のために治療を要するわけですから、これまで考えられているように大人まで持続するということが多い、ということになります。

しかし、その地域の子ども全員に診断基準を当てはめるとすると、幅広くADHDを診断してしまい、大人まで持続する割合が低くなってしまうのです。現在用いられている診断基準は非常に特性が軽い人までを幅広く診断するものであり、誰もが医療的支援を必要としているわけではありません。