大河ドラマに抜擢されて
信長は日本史上、英雄扱いされてきたので、信長を持ち上げるために今川義元は格好の餌食だった。それに、いつの時代も、為政者は自分たちの正統性を強調するために歴史を書き換えるので、実際どうだったかはわかりにくいんです。
でも最近は、今川氏の研究が進んだ結果、見方が変わってきました。ですから大河ドラマに登場する今川義元も描き方が変わってきて、いい男が演じるように。あっ、2017年に『おんな城主 直虎』で僕が今川公役を演じたので、いい男セオリーが崩れたと言われてますが(笑)。でも今川公役にとお声がかかった時は、静岡県出身者として、本当にしびれましたねぇ。
初めて大河ドラマに呼んでもらったのは14年、『軍師官兵衛』の役です。歴史好きとしては、嬉しいのなんのって。役者さんにとって大河に抜擢されるのは大変なことだと聞いていたので、僕なんかが申し訳ない、本当に!
黒田官兵衛は福岡藩の藩祖になった人で、毛屋主水は黒田二十四騎の一人。役をやらせていただくにあたって、自分なりにかなり調べました。福岡市博物館は大好きな場所なので、けっこう行っていますが、それまで気にならなかった毛屋主水の肖像を見ると、今でも「おぉ」と思います。
大河ドラマは、あくまで歴史を元にしたドラマ。つまり物語です。それはそれとして楽しんで、史実は史実として、調べて楽しむ。その両輪があることで、ドラマもますます楽しくなります。
今放映中の、明智光秀が主人公の大河ドラマ『麒麟(きりん)がくる』では織田信長が登場していますが、信長といえば比叡山の焼き討ちも有名です。歴史を知らないと、つい江戸時代のイメージを中世にあてはめてしまい、お坊さんは静かにお経を読んで修行をし、農民は搾取されながら土地に縛り付けられていると思いがち。でも中世においては、それぞれが“勢力”です。
中世では、農民も武装して城を持っていたし、寺社の勢力たるや大変なもの。加賀も戦国時代は「百姓の持ちたる国」と言われ、約100年もの間、本願寺門徒が支配していました。寺社勢力同士の抗争もすごかったですしね。天台宗総本山の比叡山なんて、言ってみれば山そのものが巨大な要塞です。
もし信長が焼き討ちをしなかったら、寺社勢力が日本を統一していた可能性もあるわけです。そうしたら、後々「暴れん坊将軍」ではなく、「暴れん坊大僧正」が登場したかも(笑)。数珠を振り回して、悪人をやっつけたりして。そんな空想をするのも、楽しいですよ。
中世においては、誰が悪者で、誰が正しい、なんてものはない。食うか食われるか。小領主は、こっちについたり、あっちに従ったり。別にそれは裏切りでもなんでもない。自分たちの土地を担保してくれるのはどちらの勢力か。常に選択していなくてはいけないし、賭けをしているようなものです。
歴史書を読むと、家が存続するか、戦いに勝つかは、どうやら運も大きい。まるでじゃんけん大会みたいだな、と思っています。(笑)