林芙美子(昭和26年7月撮影、本社写真部)

林芙美子が生きた時代と現在の共通点

今年は林芙美子生誕120年ということだが、『放浪記』が出版された1930年と、2023年の今は驚くほど似ている。景気は悪く格差は拡大、戦争の気配も濃厚で、自殺者が急増する。そんな中、労働階級の女の書き手、リアルタイムで恥も成長も発信してくれる芙美子のデビューはさぞ、多くの読者を救い、明るい気持ちにさせたことだろうと思う。

今回は編者として、林芙美子があまり気に入っていなさそうな作品をあえてチョイスしてみた。それはすなわち私自身が「私の林芙美子」と思えるものばかりだ。実際、芙美子が自分でめちゃくちゃにけなしている作品も入っている。戦争協力への反省と読める文章もいくつか見受けられ、私の中のふてぶてしい芙美子像も少しだけ変わった。

「いやだ、こんなの読まないでよ! もっといいのがあるから!」という芙美子の悲鳴が聞こえてきそうだが、いや、それこそがあなたの最大の良さなんです、と私は全力で言い返したいと思っているのである。

 

※本稿は、『掌の読書会――柚木麻子と読む 林芙美子』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。


掌の読書会 柚木麻子と読む 林芙美子』(著:林芙美子 編集:柚木麻子/中央公論新社)

私はこの「ふてぶてしさ」に何度も元気づけられてきた――筋金入りの「おフミさん」ファンを自認する作家・柚木麻子が、数多く残された短編から12編をセレクト。フレッシュなガイドともに、林芙美子が描く女たちの魅力を紹介する。〈解説〉今川英子