概要

旬なニュースの当事者を招き、その核心に迫る報道番組「深層NEWS」。読売新聞のベテラン記者で、コメンテーターを務める伊藤俊行編集委員と、元キャスターの吉田清久編集委員が、番組では伝えきれなかったニュースの深層に迫る。

新型コロナウイルスの感染症法上の分類が5月、季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げられた。コロナ前の日常を取り戻す重要な一歩になる。3年に及んだコロナ禍は様々な教訓を残した。こうした経験をどう生かしていくべきか。自民党参院議員で医師の古川俊治氏と東北大大学院教授の小坂健(おさかけん)氏を迎えた5月11日の放送を踏まえて、編集委員2氏が語り合った。

コロナの教訓「次」に備え

手つかずだった課題

「データの利活用とワクチンの開発力が課題だ。データを生かして、科学的な対策を講じる体制ではなかった。ワクチンも海外から懸命に集めて、買わないといけなかった」=古川氏

「国と地方の関係、意思決定の在り方が問われたと思う。国は全てを把握できないので、現場で起きることは現場で判断できるような仕組みが必要だ。対応が遅れてしまう」=小坂氏

伊藤コロナ禍は、日本の医療や行政をめぐる問題を浮き彫りにしました。実は、2009年に流行した新型インフルエンザの対応でも同じような課題は指摘されていました。厚生労働省が当時まとめた検証報告書は、迅速な意思決定や司令塔の必要性を強調し、ワクチン開発や接種体制の整備などを求めています。しかし、自民党と民主党の政権交代もあり、政治の側がガタガタして、そこにエネルギーを注力できませんでした。着実に取り組んでいれば、今回避けられた混乱もあったでしょう。悔やまれるところです。

感染者 累計3300万人以上 死者 7万人以上©️日本テレビ

政府はコロナ禍の反省を踏まえ、感染症対策の司令塔となる内閣感染症危機管理統括庁を新設します。米疾病対策センター(CDC)にならった感染症に関する新たな専門家組織も設置します。それぞれ必要な法改正を先の国会で行いました。組織を作れば問題が解決するわけではありませんが、次への備えを怠ってはなりません。

吉田人類の歴史は感染症と闘ってきた歴史でもあります。21世紀も「感染症の世紀」と言ってよいでしょう。SARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)もありました。しかし、伊藤さんの指摘された通り、検証報告書が「ワクチン生産体制に課題がある」と取り組みを促していたのに、ほとんど手つかずのままでした。読売新聞は13年に医療改革に関する提言を行い、医薬品などの国際競争力を高めるよう訴えました。もっとも、この10年で日本の国際競争力は逆に低下したのではないでしょうか。なぜ日本は今回後れをとってしまったのか。検証が必要だと思います。

感染が拡大した当初、マスクや医療物資が不足しました。検査体制も不十分でした。海外に比べて病床数は恵まれているはずなのに、感染の大きな波が押し寄せるたびに逼迫しました。高齢者が入院できず、自宅や介護施設で亡くなるケースも相次ぎました。コロナ禍は日本の医療の弱点をあらわにしました。残念なことですが、パンデミックはこれからも起きるでしょう。危機感を持って考えるべきです。

「入院できずに死亡」も 病床不足は解消?©️日本テレビ