いや、きっと父さんたちからするとあっという間じゃなくて、はっきりとしたその兆しみたいなものはずっとあったんだろうけど、子供である僕には何も知らされずにそれはやってきた。
父さんの会社の、倒産。
くだらないギャグにもならないけど、本当のこと。
詳しくは聞かされなかったけど、結局は大手との競争や競合に無理をしてしまって負けてしまったらしい。それで、負債を抱えてしまって会社を整理しなきゃならなくなった。
不幸中の幸い、って言うんだろうけど、その負債はとんでもないような金額にはならなかったらしい。会社を整理して全部向こうに持っていかせて、それで後は社長だった父さんや一緒に働いていた母さんが、死ぬまで真面目に働いて少しずつ返していけばなんとかなる程度のもの。会社にいた人たちは別の会社に移ってもらって誰にも迷惑を掛けずに、自分たちが苦労すればそれで終わるようなものになったって。
全部終わった後に、それを聞かされた。
父さんはどうするのかと思ったら、長距離のトラックドライバーになるって。それで借金を返していく。母さんは、母さんの伯父(おじ)さんがやっている石材店に経理事務として入るって。
え、じゃあ僕はどうしたらいいんだろうって。せっかく合格したけれど私立の学費はすごい高いんだから、公立にでも今から編入とかできるんだろうかって。
でも、それは何とかするって父さんも母さんも言ってるけど、何とかなるんだったら倒産なんかしないだろうし。
でも、せっかく難関校に受かったんだし将来への希望があるんだから、お前はそのまま通ってくれって。お前のためにもなるんだからって。
じゃあ、僕もアルバイトするよって言った。
それで、学費は絶対に無理だろうけど、僕の小遣いや交通費やそういうのの少しでも足しになるだろうから。
そんなことしなくていいって言ったけどさ。
しなきゃならない。