リゾートマンション

安い売りマンションは、主にリゾートマンションです。かつて他地域に住む人が別荘用に購入したものだそうで、マンション内の定住者は3割に満たない物件も多いとのこと。町職員の杉山さんによると、相談(愚痴)の電話をしょっちゅう受けているそうです。所有者はすでに高齢者になっていて、もう車も運転しない、箱根にも来ない、にもかかわらず所有している物件に、管理費・修繕積立金だけ毎月取られる、と。

そうしたリゾートマンションは「温泉大浴場つき」のところが多いのが特徴です。購入時には魅力的だった温泉付き物件ですが、大浴場のないマンションよりも当然、維持費がかかります(管理費、修繕積立金のほかに、温泉代や大浴場代が徴収されます)。そのメンテナンス代は古くなるほど増えます。泊まりもしないマンションと、浸かりもしない温泉のために、毎月5~6万円もの維持費を払わなくてはいけません。しかも今後も値上がりし続ける訳です(さらに年間で固定資産税も払う必要があります)。定住していない高齢者にとっては、単なる大きなお荷物、無駄以外の何物でもなく、安くていいから手放して負担を減らしたい、ということなのでしょう。

ということで、探せば、安くマンションが見つかることは分かりました。あとは、住み手としての、こちらの覚悟次第です。本気で住むのか、いつから住むのか。どう暮らすのか。ちょうど、先輩移住者に話を聞かせてもらいました。強羅でコーヒー店を経営している合羅(ごうら)さんという男性で、「一番大事なのは、自分がどう生きたいか、どう生きるか。まず、それを考えないと」とのこと。どう生きるかが決まれば、「住むところは縁」で、合羅さんは箱根の家をすぐ見つけられたそうです。

合羅さんは都内で働いていた20代の頃から、いずれ温泉地でコーヒー店を開きたいと計画していたそう。「老後は自然が豊かなところで毎日温泉に入りたい」と思っていて、46歳で、予定より早くハッピーリタイアメントして箱根に移住しました。当時は独身で、箱根か伊豆か軽井沢かと迷った結果、箱根を選んだそうです。「箱根は神奈川県ですから。東京が近くて、テレビもラジオも東京と同じ。地方の、他の過疎地と決定的に違うのは、年間2000万人が訪れる観光地で、日中は人が多い。外から来る人を受け入れる土壌があること」。東京にも近いし、全てを捨てて移住しなくても東京と二拠点生活が可能だとも言います。合羅さんは箱根に来てから、年収は下がったけれど支出は減ったので、手残りは変わらず、自分の時間も持てるようになり、「東京にいた頃よりずっと豊か」に生活できているそうです(しかも昨年、結婚までしたそう!)。

ただし、リスクマネジメントだけはしろ、と合羅さんはアドバイスします。確かに、自然災害は要チェックです。箱根といえば、噴火騒ぎが記憶に新しいです。ただ、2015年の当時、大涌谷の噴火口近くが立ち入り禁止になっただけで、町民の生活にはなんら影響はなかったと、黒澤さんらは言います。ことに仙石原の街中は、風上だったおかげもあってか、降灰もなかったそうです。また、2019年10月の台風19号は、箱根町で1日の降水量が922.5ミリと、国内最高記録を更新しました。この雨で、箱根登山鉄道の一部が崩れ、箱根湯本―強羅間が不通になり、国道138号も、箱根町仙石原-宮城野間で土砂崩れが起き、部分通行止めになりました。とはいえ、人的被害はなく、道路も迂回路があるため、孤立集落は発生しなかったとのことです。また、ふだんからあまり地震には見舞われることもないそう。

――となれば、もう、あとは移住を決意するかどうか、です。しかも、合羅さんが言っていたように二拠点居住もありでしょうと、町職員の杉山さんも言います。完全移住じゃなくていいんですか? 「もちろん住民票を移して完全移住してくれる人は歓迎します。でも、完全移住してくれても町になんら関わらない住民より、二拠点でもいいから町に貢献してくれる人に来て欲しいです」