気功と愛犬の力も借りて

 実は、僕が作詞をする上で欠かせないことがもうひとつ。90年代のヒット曲の歌詞を書く前には、毎回気功の先生のところに行って、気を入れてもらっていたんです。その先生は本当に力のある方で、彼に気を入れてもらうと頭のアンテナの研ぎ澄まされ方がまったく違う。彼曰く、「売野さんは自分に才能があるわけじゃありません。世の中に電波が飛び交っていて、それをキャッチする能力が高いのです」と。そのキャッチ能力を、先生の気功で上げてもらっていたような気がします。

1980年の雑誌『FINE』グラビア。左は歌手の平山みき(当時は三紀)さん(写真提供◎売野さん)

 かれこれ10年近くその先生のところに通っていたものの、残念ながらお亡くなりになり、その後は本当に困り果てました。でもあるとき、僕が娘にプレゼントしたトイプードルが自分のアンテナ代わりになってくれることに気がついて、作詞の仕事が入る度にうちに借りてきていたんです。その犬はものすごく感受性が高くて、夜中に僕がふと目を覚ますと、毎回必ず僕の方をじーっと見つめている。それだけ鋭い感受性を持っているので、膝に乗せて仕事をしていると次々にアイディアが浮かんでくるんです。スピリチュアルな世界に懐疑的な方には、「それって、どうよ」という話ですけど(笑)、2002年以降に僕が歌詞を書いたヒット曲の数々は、娘の愛犬に助けられた部分も大きかったと思います。

 とはいえ、いくらいい歌詞が書けたとしても、作詞家ひとりの力でヒット曲を生み出すことはできません。歌詞、作曲、編曲、歌い手――この4つがピッタリ合わないとダメなんです。逆に言えば、自分の書いた詞がいい歌い手に巡り合えたときは思いもよらぬ大ヒットになるときがある。そのいい例がチェッカーズの「涙のリクエスト」です。あの曲があんなにヒットするなんて、僕はもちろん、誰も予想はしていなかった。でも、あの歌詞が久留米から上京してきたばかりの彼らにどストライクでハマったことで、あそこまで爆発的なヒット曲になったのだと言えるでしょう。