「マインドサーカス」は僕のクリエイターとしての原点であり、自分そのもの(撮影◎本社 奥西義和 以下すべて)
チェッカーズ「涙のリクエスト」ラッツ&スター「め組のひと」中森明菜「少女A」郷ひろみ「2億4千万の瞳」など、1980~90年代に大ヒットした数々のポップスの作詞を手掛けてきた売野雅勇さん。その作詞活動40周年を記念したコンサート『MIND CIRCUS SPECIAL SHOW 「それでも、世界は、美しい」』が7月15日に東京国際フォーラムで開催される。売野さんが、これまでに作詞を手掛けた曲は1500曲以上。1度聴いただけで心に残るインパクト大な歌詞を生み出す秘訣や、70代の現在も仕事にまい進するためのライフスタイルについて、お話を伺った。(構成◎内山靖子 撮影◎本社 奥西義和)

「思考のアクロバット」が僕の原点

 今回のコンサートのタイトル「MIND CIRCUS(マインドサーカス)」は、僕がつくった言葉です。まだ作詞家になる前の話で、コピーライターとして働き始めた24歳のときに、この言葉を思いつきました。いわゆる普通のサーカスは、肉体を使って、どこまでアクロバティックな動きができるかという限界ギリギリまで挑戦する姿を見せるものですよね。それに対して、マインドサーカスは自分の頭を使って、思考のアクロバットで限界に挑戦すること。かれこれ50年近く、コピーを書くときも、歌詞を考えるときも、映画をつくるときも、僕は自分の頭の中で、常に限界まで思考のアクロバットに挑もうと意識してきました。つまり、「マインドサーカス」は僕のクリエイターとしての原点であり、自分そのもの。今回のステージで聴いていただくヒット曲の数々も、僕の思考が様々なサーカスを繰り広げた結果、生まれてきたものだと考えて、今回のコンサートのタイトルに決めました。

 ちなみに、先日亡くなった坂本龍一さんが78年にYMOを結成した直後の雑誌のインタビューで「僕が今、一番記憶に残っている言葉はマインドサーカスだ」と、おっしゃっていて、本当に驚きました。当時、僕が編集長をしていた雑誌に「マインドサーカス」というコーナーがあったので、多分、それを偶然目にされたのだと思うのですが。それから約18年後の96年に、中谷美紀さんのシングルを坂本さんが作曲し、僕が作詞することになったとき、「マインドサーカスは、実は僕が作った言葉なんですよ」とお伝えし、この言葉でつながった僕たちの出会いを記念しようということで、中谷さんのシングルのタイトルを「MIND CIRCUS」にしたんです。

 コンサートの話に戻しますが、副題の「それでも、世界は、美しい」は僕の人生観を反映した言葉です。今、世界では戦争が起きていますけど、こうした悲しい状況の中でも、人生は生きる価値があるということを一番に伝えたかった。日常生活においても、僕たちの毎日には寂しさや切なさ、情けなさがあふれています。それでも、誰かを愛したり、美しい音楽を聴いたりすると、「人生ってやっぱり素晴らしい」と思うわけでしょう。そうした、辛いときでも人生を肯定していく力をみなさんに感じてもらえたら、と。

 今回のステージでお聞かせする80年代、90年代を中心としたヒット曲は、最近の若い世代にも人気があるようです。その理由は、当時の歌はたとえ失恋ソングでも、根底に「人生を肯定するマインド」が流れているからではないかと思います。だから、悲しい歌を聴いても心底辛くなることはない。もちろん、今とは背負っている時代背景が違うということもありますが、僕の歌詞も基本的にはすべて人生を肯定する気持ちで書いています。そうじゃないと、歌にする意味がないですからね。そんな当時のヒット曲の数々を、今回のコンサートで存分に楽しんでいただきたいと思っています。