巣立ちの直後ほど危険な期間はないといつか読んだ……などと考えながら歩いていると、川岸にカルガモがいて、いつものようにクレイマーが追いかけたわけで(つかまえたことはないし、つかまえられるような能力もない)、2羽のカルガモが逃げていったのであるが、帰り道、同じ2羽をまた見かけ、2羽が番で、子連れであることに気づいた。
子ガモは1羽だった。
カルガモって、ふつうは数個の卵を産んで孵すわけで、つまりもっとたくさんいた子ガモたちが、猫に取られたり、カラスにやられたり、弱くて育たなかったり、溺れたりして、1羽また1羽といなくなり、こうして1羽が残ったのだった。そして今、夫婦は、最後の子ガモを大切に守り育てているのである。
さっき犬が追いかけてきたときも、夫婦力を合わせて必死で逃げる演技をして、犬を子ガモから遠ざけたのだ。「いいかい、隠れてるんだよ、お母さんとお父さんが帰るまで動かないんだよ」と言い置いて。
……キリがない。どうしてこんなに家族の物語を語りたいんだろう。あたし自身が経験してきた物語ばっかりじゃないか。
今歩いているのは河原の土手で、オオブタクサやカナムグラやハルジオンやヨモギやセイバンモロコシや、そういう野草がひしめいている、ただただ緑の野原である。緑の野原の中にぽつんと色があると、「あ、花だ」と思う。よく見れば、花だったり、ゴミだったりする。花のときはなんとなく安心する。家族の物語をつくる心持ちと、同じようなものかもしれないと思う。
家に帰り着いてみたら、なんと、ツバメのひなたちが巣に帰っていて、親鳥が今までどおりせわしなく飛びまわり、ひなたちの口の中に虫や何かを入れていた。人間だって、家を出てもなんだかんだと泣きついてくる子もいる。こない子もいる。
……そんなことを考えながら中に入り、濡れたクレイマーを拭いていると、クレイマーはいつもどおり頭をあたしの両股の間につっこんで甘えるし、待ちきれなくなったチトーは遠吠えを始めるし、メイは頭でぐいぐい押してくる。テイラーは「ぎゃー」と鳴いてあたしを見つめている。これが今のあたしの家族の物語。