ただ、身のまわりのものをほとんど捨ててしまった私が、どうしても手放せなかったものが一つありました。それは、30代の頃から大切に使っていたピアノ。がらんどうの部屋で私の帰りを待っていてくれたこのピアノが、歌への思いを呼び起こしてくれたのです。

以前と変わらぬ音に、勇気づけられたといいますか……。再び歌いたいという気持ちが湧き上がってきました。当時は病気のせいで声帯の筋肉がすっかり衰えていましたが、ボイストレーナーのもとで発声方法を一から学び直し、60代で声を取り戻すことができたのです。

75歳の今、病気は寛解状態。とはいえまだ完治したわけではないですし、ほかにもいくつか病気を抱えています。そんな私でも、定期的にコンサートを開くことができ、お金を払って足を運んでくださるお客さまがいる。本当にね、これ以上の幸せはないと思います。だから私はプロとして、体調を万全に整えておく必要があるのです。

そのために、規則正しい生活を心がけています。毎朝7時頃に起き、時間が許せばラジオ体操を。その後、野菜中心の朝食を摂って、必ず掃除と洗濯をします。午後は歌とピアノのレッスンを少し、お天気がよければ散歩や買い物。そして22時頃に就寝します。これが快眠・快食・快便を保つために編み出したルーティン。とてもシンプルでしょう。

とはいえ、すべてきちっとできているわけではありません。実際は毎日この通りにはいかず、ときには映画を観て夜更かしすることも。掃除だって、完璧でなくても《やった感》さえあればいいと思っています(笑)。ある意味、その気楽さが規則正しい生活を続ける秘訣とも言えるかもしれませんね。