小島 就労支援の現場でも実感します。働けという「脅しの会話」をしている間は決して「問題解決のための会話」に移行できませんね。
斎藤 そこが理解されていない。「働かなくても生きていける」と思ったときに、初めて就労意欲がわいてくるというパラドックスがあるのです。しかし親も世間も、「働かなければ立ちゆかない」という不安を子に与え続けなければと思い込んでいる。
小島 家庭での対応の限界もあると思います。いじめで不登校が長期化したり、人間関係や労働環境のせいで体や精神を病んだり。そうなれば誰にも会いたくない、外に出たくないとなるのは人間として当たり前。それが長期化した場合、家族の中での解決はなかなか難しい。専門家の手を借りることも必要です。
斎藤 その際に気をつけてほしいのは悪徳支援業者です。一番危険なのは拉致監禁タイプ。古くは戸塚ヨットスクール、長田塾、アイ・メンタルスクールなどがありました。今たくさんの業者が参入してきているのですが、なかには暴力的な支援で提訴されているところもあります。初期費用を提示しないとか、「このまま放っておくとお子さんは犯罪者になります」などと脅してくるところはまずやめたほうがいいでしょう。
小島 地域にどんな支援サービスがあるか、また専門医のいる医療機関などの情報も大切ですね。本来はもっとさまざまなバリエーションの公的支援など、社会保障の中で補っていかなければいけないのですが。
斎藤 はい。本当はひきこもりの子が成人して以降は、家族だけの責任で見るべきではないと私も考えています。ただ、「このままでは年金も限界だから、70歳まで働け」などと言っている政権に、ひきこもりに関する公助はあまり期待できません。とりあえず、わが子との向き合い方を考えるというところから始めるしかないですね。
介護虐待を避けるためには
小島 私が長年かかわっているある地域の支援活動で、子の就労を焦らせないように親御さんのカウンセリングを続けていたら、半年ぐらいして「本人とお金の相談ができました」と言われたことがあります。
斎藤 少しずつ会話できるようになってきた時点で、お金の話を切り出したわけですね。
小島 はい。親が子どもに包み隠さず貯金を見せて財政状況を話したら、子どものほうからも「こっちはこれだけ貯金がある」と。それで「お父さんとお母さんは家を売ってマンションに移ればいい。僕とは一緒にいたくないだろうから、自分はもし借りられるなら1Kのアパートに住む」と、子どものほうから提案が出て、親はびっくりしていました。
斎藤 ひきこもっている本人も、自分なりにいろいろなことを考えているのです。でも、働くかどうかにばかり親がこだわっていると、子どもが考えていることが見えてきません。
小島 働けといっても、すぐに働ける場所もないわけですからね。