斎藤 はい。だから結局いつも議論と尋問になってしまい、話が進まない。でも落ち着いて丁寧にお互いの言い分を聞き合っていくだけで、いろいろなことがわかるし、解決の糸口が見えてくることもあります。

小島 親が少し弱ったふりをして、子どもに手助けしてもらうのも、きっかけとしてはいい方法ですね。

斎藤 親はだいたい上から目線で叱咤しますから、子どもも受け入れられない。そうではなくて、子どもに何か頼んだり、助けてもらう。高いところにあるものを取ってもらうのでもいいし、親が苦手なパソコンを代わりに操作してもらうのでもいい。仕事としてではなく、あえてその都度お願いしてやってもらい、やってもらったらお礼を言うことです。

小島 お礼や挨拶、たわいない世間話。そういう毛づくろいのような会話が最も大切であり、最初の一歩だと、先生はおっしゃっていますね。

斎藤 コミュニケーションにおいて、目的のないおしゃべりというのは非常に重要です。

小島 今後、親が高齢化して体力的につらくなったとき、もし子どもを外に出すことが難しければ、デイサービスやショートステイなど介護保険を使って、親を外に避難させるということも必要になってくるのでは。

斎藤 家庭内暴力がある場合は特に、70代、80代の親御さんは別居も視野に入れて考えたほうがいいと思います。自分が介護される立場になることを考えていない親御さんもけっこう多いのです。しかしあえて言いますが、その状態で親が要介護になってしまったら、間違いなく介護虐待が起きてしまいます。

小島 どの段階で福祉に移行するのか。そういうことも含めて親子で話し合えるといいのですが。ファイナンシャルプランナーなど、第三者の専門家を入れることができれば、また違うと思います。

斎藤 話し合いをしないまま、最後は心中未遂のようになり、出頭して服役したケースを2件知っています。構造的に考えて、放っておけばこうした事件はどんどん増えていくでしょう。今からきちんとした支援につながっておくことが大切です。