勝てなかったもうひとつの理由

もうひとつ、この時期に勝てなかった理由について心当たりがある。

それは目標を立てた後、そこへ向かう気持ちの部分だ。

これは私が指導者になってから今に至るまで変わらない方針なのだが、箱根駅伝では常に「3位以内」を目標としている。

それには理由がある。まずチーム作りの段階では3位以内に入る戦力を目指せば、優勝のチャンスが出てくるためである。決して優勝を目指さないわけではない。

しかし勝負は時の運の面もある。3位に確実に入れるチームを作り、チャンスがあれば、一気につかみ取っていくというスタイルを私は常にイメージしていた。

実際、2021年の箱根駅伝は最終10区にタスキが渡った時点で2位。トップを走る創価大学とは3分19秒の差をつけられていた。

大八木総監督「常に上位にいて、優勝を狙える結果を出し続けることが『常勝の条件』なのだ」(写真:(C)太田涼 大八木弘明さんのインスタグラムより)

これは1km以上離されていることを意味し、20 kmの距離では通常、逆転できる差ではない。しかし前を行くランナーが失速したため、結果的に優勝のフィニッシュテープを切ることができたのである。

アンカーで3分以上の差の逆転劇が起きたのは89年ぶり、とレース後に知った。

優勝は難しくとも上位を維持しようと心を切らさずに走っていれば、こうしたチャンスが巡ってくるのだ

もうひとつは、どんなに戦力が厳しくても「3位以内」に入っておけば、翌年の立て直しがやりやすいという事実もある。

これが7位や8位になると次の年にいきなり優勝を狙うのは厳しくなる。

そして、力があり箱根駅伝で優勝したいと考える高校生にとって、駒澤大学は魅力的な進路とならず、選手勧誘で後手(ごて)に回ってしまうことも考えられる。