ただ、彼らはおおらかな半面、約束を守らない、宿題を忘れる、遅刻が多いなど、いい加減なところがある。宿題などの大事な連絡は、日本の高校に通っていた帰国子女のソヨルマーに通訳してもらったが、きちんとやってくる学生は半数ほど。催促されれば持ってくる者もいるが、3分の1は未提出というありさま。対策として直接電話する作戦も実行したが、それでも頑として提出しない強者には参った。
私はショック療法を取ることにした。感情に訴えるのである。馬用の本物の鞭を用意し、授業が始まると、教卓を思い切り鞭で打ちながら宣言した。
「これから君たちの怠け心を鞭で打つ!約束は守れ!モンゴル人の誇りを持て!」
もちろん体罰をする気はない。突然のことに驚きぽかんと口を開けている学生を尻目に、私は肩をいからせて教室を出た。学生が反感を持つか、反省するかの賭けだった。学生たちを信じて職員室で辛抱強く待つ。
すると30分後、学生たちが神妙な顔でやってきた。
「センセイ、ゴメンナサイ。コレカラハマジメニヤリマス」
これで解決と思った瞬間、私の目から大粒の涙が溢れ、声を上げて泣いてしまった。
全力でぶつかり合った私と学生たちの間には特別な絆が生まれ、その後13年間モンゴルで教師を続けることができた。彼らの中には、日本語スピーチコンテストで入賞し、日本留学を果たして日本語教師となった学生もいた。
もし、モンゴルで教師をしなかったら、夫の看病を口実に退職した自分を許せなかっただろう。新天地での挑戦は私を教師として再出発させ、自信を取り戻させてくれたのだ。