「ゼ・ロ・で・す!」

私はフリーランスなので産休育休もない。仕事を休むこと=無収入なので、子を産んだらできるだけ早く仕事に復帰したかった。

特に私の子は3月生まれ、いわゆる早生まれであるため、保活には不利だった。保育園で預かってもらえるのはもっとも早くて生後57日以降と決まっている。0歳で預けようとすると4月の入園にはまず間に合わない。

つまり、どんなに早くても5月以降に入れることになるのだが、保育園というのは4月の時点で募集を開始して早い者勝ちで埋まってゆく。5月の時点で空きがゼロ、ということも珍しくない。

とりわけ駅に近い便利な園や人気のある園は、年度途中の入園など奇跡に等しく、必然的に選択肢は限られるのだった。

「妊娠したら即、保活したほうがいいよ、生まれて骨盤がガタガタの状態で保育園見学行くの、まじ、しんどいよ」
私が妊娠したばかりの頃、ヨシノちゃんは言った。

「妊娠中だとさ、こんなしんどいのに、って思うじゃん? でもね」
彼女は声をひそめた。
「産んだあとはさ、時間を戻してくれ、って皆思うんだよ」

生まれる前から預け先を心配しなけりゃならないなんて、いったいどんな罰ゲーム? そう悪態をつきながらも、くるっと不調にくるまれていた妊娠期間のうち、この時期は比較的、いや、ほんっとうに比較的に、ではあるがまだ体調が良いほうだったので、私は区役所に出かけてゆき、保育園、どんな感じですかねとジャブを打ってみたのだった。

「こちらが保育園の入所要項になります」

手渡された大量の紙の束を、私は思わず投げ捨てそうになった。

多い。

知能がゾウリムシレベルに低下している妊婦(※)に読める量ではない。試しに開いてみると、まるで悪徳AV会社の出演契約書かと思うほど細かい文字がぎっしりと並んでいた。少年ジャンプのタイトル文字くらいの大きさにしてくれないと、ハダカデバネズミぐらい視力が低下している妊婦にはまず読めない。

※【夫】:妻は妊娠して、「寄生獣」っぽくなったりゾウリムシっぽくなったりしましたが、元気で美しいのは変わりありませんでした。
『わっしょい!妊婦』(著:小野美由紀/CCCメディアハウス)