夫だって「妊婦のパートナー」ビギナーだ

体が己の知らない何かに変容してゆくことへの慄き、何かあれば赤ちゃんの命に直結するという恐怖、まだお腹も膨らまないうちから空気のようにまとわりつく、母になれ、というプレッシャー。

丸腰の個人と個人で結婚したはずなのに、私のほうにだけ先に「母」というレイヤーが被さり、同じ景色を見られなくなっているという現状。夫も私も、妊娠―出産というプロジェクトにおいては代替不可能なプレイヤーであるはずなのに、なぜだか同じフィールドでプレイしている気がしないという不信感。

それはつまり、育児という「本戦」が待ったなしではじまった時、我々はチームとして瓦解し、私が夫に戦力外通告を叩きつけるのでは、という不安でもあった。つまり私は妊娠してからというもの、彼に対して「おまえ、本当に子育てのプレイヤーとして信用していいんだろうな?!」という疑いを無言のうちに突き付け続けていたのである。

私たちはよく話し合った。話し合い、夫の提案により、カップルカウンセリングを受けることにした。

調べてみて驚いた。世の中には夫婦問題を専門とするカウンセラーがこんなにたくさんいることに、大半がオンラインでも相談に乗ってもらえて、初回無料のところも、夫か妻どちらか一人だけでも受けられるところもある、ということに。

夫婦二人の問題を他人に話すことに抵抗がないわけではなかった。しかし、受けてみて思ったのは、むしろ「怒りに目が曇った当事者同士が、第三者の介入なしに問題を解決することなど、ほぼ不可能」ということだった。

『わっしょい!妊婦』(著:小野美由紀/CCCメディアハウス)