私たちは「親のなり方」を知らない。一度か二度、パパ学級で沐浴のやり方を学んだくらいでは父にはなれない(写真はイメージ/写真提供:photo AC)

なぜもっとはやく相談しなかったのだろう。

不安に目が曇るあまり、我々はお互いの姿をよく見ていなかった。数年の時を過ごし、相手のことをすべてわかったつもりでいたが、実際は氷山の一角を見ていただけに過ぎなかった。

氷山の海面より下の部分には、今まで知らなかった彼の来歴、今の彼を形づくった豊かなあらましと、それゆえの弱さとが同時に隠れていた。互いのことをよく知らない同士がユニットを組み、頼りない命を生み出そうとしているのだから、衝突するのは当たり前である。

「あなたたちだけでなく、ほぼすべての夫婦に言えることですが」と、カウンセラーは言った。

「人がいちど愛した相手を憎むのは、相手を愛せなくなりそうな時、そして、本当は愛し続けたいと思う時なのです」

カウンセリングを受けるうち、夫もこれからのことに不安を抱いていたことがわかった。出産までの道のりは私一人だけのものではなく、彼のものでもあった。(※)考えてみれば、私が妊娠前に知りたかったあれこれは、そっくりそのまま夫にとっても知りたかった内容であるはずだ。

※【夫】:男性にとっての「妊娠・出産」というライフイベントがあまり語られないのは、「妊娠・出産する本人ではないから」かもしれません。しかし、マイナートラブル(寝込むほどではないが、日常生活を送るうえでは心身につらいトラブルのこと)で苦しむ奥さんと喧嘩する時点で旦那さんもじゅうぶん当事者のはずです。