「本当に、祈っている人間と世界が一つになる作品なんです」(撮影◎林喜代種)

「祈る人」への思い

7月27日には、細川俊夫さん(作曲家。代表作にオペラ「斑女」、「循環する海」など)の新作のヴァイオリン協奏曲「祈る人」を、セバスティアン・ヴァイグレさん指揮、読売日本交響楽団の定期演奏会で日本初演します。(※編集部追記:本公演は終了いたしました)

ベルリン・フィルでの世界初演は2023年3月2日。パーヴォ・ヤルヴィさんの指揮でした。今度東京で演奏するにあたって、細川さんが何個か音を変えています(笑)。取材の2週間前にはスイスでの初演もやってきましたが、違うオケ、違う指揮者になると全然違う雰囲気になります。読響さんと共演するのも1998年以来で、すごく久しぶりなので楽しみです。

「祈る人」というタイトルだと知った時、「なぜ?」って思ったんです。僕のために書いてくれたコンチェルトだったので。細川さんに聞いてみたら、僕の演奏を聴いていると、ヴァイオリンを通して祈っているように聴こえてくると言うんですよ。そういうイメージを持ってくださっていたのを知ってびっくりしました。

でも、そこで反対するよりも素直に受け入れてやってみたんですけど、本当に、祈っている人間と世界が一つになる作品なんです。曲の中に揉めごとも闘いもあって、そこを通って結果的に一つになっていける。そういう感覚になる曲と思います。

細川さんは本当に素晴らしい作曲家だし、同じベルリンに住んでいた頃一緒に食事に行くなど、個人的にもつながりがあったので。ぜひにということで僕から作曲をお願いしました。

僕がイメージしていた細川さんの曲は、雰囲気で音を作っていく。メロディよりもハーモニーの感覚の音楽です。日本の楽器も使っているし、和と空気感を大事にしている作曲家です。

ところが、「ちょっと今回の曲は違うからね」って言われたんです。ちょうど書き始めた頃にコロナ禍があって、ウクライナで戦争が始まったことにも影響されて。それが音楽にも自然と出てきていると感じます。

アグレッシブなところも多くて、細川さんからも「強いところも要求してくるからね」と。

結果的には素晴らしい曲ができました。今までの細川さんのイメージの曲とは少し違いますね。