死守すべき命題

連載20回目で、箱根で先輩移住者に言われた、「人生で何をするのか」「何がしたいのか」という問いが身に染みます。後半生を、なぜ、何のために、そこに暮らすのでしょう。どんな住まいを選び、何をしたいのでしょう。その場所に住むことが、自分にとって、どんな意味があるのでしょう――根本的な、この自問自答に、巡り巡って立ち返ります(おひとりさまですから、「誰と」は、あえて省きましたが、後半生は、パートナーではなく、姉妹や親族、友人らとの同居を検討している単身女性もいるかもしれません)。ここから考えなくちゃ。

もちろん、ステキな年の取り方をしている女性のロールモデルもいます。例えば、婦人公論.jpにもインタビューが掲載されていた石井哲代さんは、103歳のいまもずっと広島県尾道市の自宅一戸建てで一人暮らしをしているとのこと。連載陣の一人である紫苑さんの、「つましく」も「上品な」単身の都会暮らしもセンスがあって理想的です。

でも、あえて言わせてください。石井さんが畑仕事に精を出せるのも、紫苑さんが年金5万円で生活できるのも、「家」があるからこそ、です。田舎だろうが都会だろうが、一軒家でもマンションでも、自分の持ち家があるからこそ、自給自足と年金で生きていかれるのです。もちろん所有すればメンテナンスにお金もかかりますが、賃貸の心許なさに比べればはるかに安心です。とりあえず、雨風をしのげる場所があり、そこを誰かに追い出される心配はありません。彼女たちの「住まい方」は手堅く、これから定年を迎える世代のシングル女性たちの新しいモデルとは言えません。

年を重ねて住居を無くす不安といえば、この連載の初回にも書きましたが、2020年11月に東京・幡ヶ谷のバス停で殺された64歳女性の事件を思い出します。生活に困窮して家を失い、コロナ禍で職を失い、路上で暴力を受け亡くなった彼女の存在は、不安定なフリーの立場で働く女性たちに警告を鳴らしているようです。働く意欲や意思があっても、家を持たないと瞬時に社会的に脱落すること。

そして、ひとたび家を失うと、就職も難しくなり、行政サービスの網の目からも零れ、誰にも見つけてもらえない透明な存在になってしまうこと。転落すると、そこからは、若者ですら、自力ではなかなか這い上がれないこと。いわんや還暦過ぎの女性をや。結果、彼女のような路上の死が待っているとしたら、家の確保は死守すべき命題です。