自由な時代だった

――古谷さんは保守雑誌『JAPANISM』2011年8月号の「アニメ的愛国論」で、「再考『はだしのゲン』」という論考を発表していますね。『はだしのゲン』に対して「左傾的思想漫画」との批判がうずまく保守論壇のなかで、当時このような論考を発表されたことに対して、社内外のあつれきはなかったでしょうか。

私はこの雑誌で後に編集長をやるまでになりましたから、少なからぬ権限を持っていました。原稿は社主(版元側)にチェックをされますが、すでに述べたように保守派と呼ばれる人々はそもそも「はだしのゲン」を通読していないので、「愛国論」と冠して、詳細については技術的なことに終始してしまえば、原稿の内容についてはほとんど何も言われませんでした。

ことほど左様にこの界隈は読書習慣がなく、好きな保守系言論人の本や寄稿雑誌を買うには買いますが、タイトルを読むだけで本文は読まない場合が多いのです。いわゆる積ん読です。拙著『シニア右翼』でも書かせていただきましたが、私の初期の本を最も熱心に読み、付箋をいっぱいつけて会いに来てくれたのは、保守系の読者ではなく朝日新聞の記者でした(のちに該記者による、朝日新聞紙面における都知事選挙記事での私のコメントは、私が保守界隈から白眼視される遠因のひとつになりましたが・笑)。

よって、社内外の軋轢というものはございません。逆にいえばタイトルに「愛国」とか「左翼を斬る」「中国、韓国のおぞましい反日」などとつければ、なんでも書けた時代です。だって中身なんか読んでませんもの。私はこの雑誌で「アイアムアヒーロー」(花沢健吾作)の書評とロケ地探記も書いてます。政治的保守と何にも関係ないですが、「ジョージ・A・ロメロを超越する国産ゾンビ作品の本格的黎明」などと文化ナショナリズムを称揚しておけば、なんでも書けたんですね。懐かしいです、いびつですが自由な時代でした。

『シニア右翼―日本の中高年はなぜ右傾化するのか』(著:古谷経衡/中央公論新社)