せめて記憶だけは継承を

――古谷さんは「戦争を総括してこなかったがゆえに、戦後日本は腐った基礎の上に家を建てているようなものだ」と指摘していますね。この持論をふまえて、『はだしのゲン』のほかに参考になるような漫画やアニメがあれば教えてください。

『うしろの正面だあれ』。何を差し置いてもこれです。東京大空襲を描いたアニメ作品、原作は海老名香葉子氏です。これも「はだしのゲン」と同様に作者の実体験に基づいており、戦争を扱ったアニメの中でも不滅の金字塔というべき作品です。

3月10日にかかわらず、繰り返し繰り返し見なければなりません。戦争の総括をしてこなかったが故の「未完の戦後民主主義」は『シニア右翼』最大のテーマであり、とくに後半において深く展開しましたが、最大の背景は「戦争記憶の無継承と無点検」にあります。歴史を現在から点検することは、様々な恣意が入ることは当然ですが、せめて記憶だけは継承しなければなりません。疑似的にでも追体験しなければならないのです。

そのために私は、せめてものという意味で、インパール、コヒマ、ベトナム、ジャワ、フィリピン、沖縄、マリアナ等に行ってまいりました。しかしなかなかそういたフィールドワークが難しいという場合は、「はだしのゲン」のような視覚的物語として受容するのが一番です。「うしろの正面だあれ」は「はだしのゲン」と双璧をなす大傑作であり、当時文部省推薦として制作されたものですが、現在は地上波放送などの機会はほとんど絶無です。少しでもいいから、こういったすぐれた作品群によって記憶の継承を試みるべきではないでしょうか。


シニア右翼―日本の中高年はなぜ右傾化するのか』(著:古谷経衡/中央公論新社)

久しぶりに実家に帰ると、穏健だった親が急に政治に目覚め、YouTubeで右傾的番組の視聴者になり、保守系論壇誌の定期購読者になっていた――。こんな事例があなたの隣りで起きているかもしれない。
導火線に一気に火を付けたのは、ネット動画という一撃である。シニア層はネットへの接触歴がこれまで未熟だったことから、リテラシーがきわめて低く、デマや陰謀論に騙されやすい。そんな実態を近年のネット技術史から読み解く。