古谷さんがすぎやまこういちさんの壮絶な敗戦体験を聞いて考えたこととは――(写真はパラオに残る第二次世界大戦の日本軍施設跡。写真提供:Photo AC)

 

「久しぶりに実家に帰ると、穏健だった親が急に政治に目覚め、YouTubeの右傾的番組の視聴者になっていた」――そんな光景が今日もこの国のどこかしらの家庭で繰り返されている、と話すのは、作家・古谷経衡さんだ。近年、シニア層もネット動画を視聴するようになった一方、ネットへの接触歴がこれまで未熟だったことから、ネット上でのヘイトが昂じてトラブルが頻発。「実はあなたの隣で起きているかも」と警鐘を鳴らす古谷さんいわく「戦争の結末」だけでなく「戦争はなぜはじまったのか」の部分をしっかり教えるべきでは、とのことで――。

すぎやまこういち氏の敗戦体験

現在、シニアと呼ばれている人のほとんどは、戦争を経験していない。例えば現在50歳(以下、ライトシニアなどと呼ぶ)は1972年に生まれたので戦争とは無縁だ。

現在75歳(以下、ディープシニアなど同)であっても敗戦直後の生まれで戦争を全く経験していない。

概ね「団塊世代」とされるディープシニアは物心ついたとき既に1950年代から60年代にあって、日本社会が戦災からの「復旧」を遂げた姿しか知らない。

思えば戦争の惨禍を知る超シニア世代での右傾化は、少なくとも私の経験上あまり見たことがない。大正生まれで満州に入植した私の祖母が市井の立場から太平洋戦争を徹底的に批判したように、真の戦争経験者は強烈な原体験ゆえに右傾化していない。

あれだけの辛酸を舐めつくした人々は、国家や教員に言われなくとも皮膚感覚で戦争がいかに絶対悪であり、残酷であるかを人生の中で知っているからだ。

2021年9月に90歳で死去した『ドラゴンクエスト』などで知られる世界的作曲家のすぎやまこういち氏の自宅に、彼がまだ80代前半だったときに招かれたことがあった。

当時すでにすぎやま氏は保守論壇で確固たる地位を確立していた巨人であり、「日本には親日軍と反日軍が存在し、この両者による内戦状態である」とやや分かりづらい表現で現下の政治状況を語っていた。

しかし当時20代末だった私は、このとき聞いたすぎやま氏の敗戦体験を忘れることができない。