戦後日本特有の現象

「なぜ」という部分を検証しないまま歴史修正動画に影響されたシニアは、「あの戦争は軍事的に“のみ”失敗した」と口々に言う。

であるならば、またも近い将来の日本においては「軍事的に優越して作戦を成功させるのならその戦争は正しい」という言説や政策すら肯定することになる。

「勝てる見込みが大いにある戦争ならやってもよい」「勝てる戦争ならばアメリカに追従しても良い」ということになる。つまり勝ち馬理論である。

これは即座に戦争に参戦する口実を与えるもので、極めて危険である。手遅れにならないうちに「なぜ」を強く伝え徹底的に教え、教えるだけでは足らず能動的な意識で以て大いに議論させるべきだ。

このようにあらゆる意味での戦前と戦後の連続こそが、民主的自意識の寛容を阻害し、戦後民主主義を未完のものに終わらせてしまった。

その理由は、政治機構の中の人々における民主化の不徹底、戦後政治システムの不均衡な票格差、古い社会・経済構造の未改革、そして歴史検証の未完が相互に絡み合っている。

こういった流れを無視して「敗戦後日本は民主主義国になった」と思い込んでいるのならそれは間違いである。それが正しいのであれば、シニア右翼は発生しえない。そもそも戦後でも、日本が民主主義社会を達成したことは一度もない。

戦後の日本でこういった旧体制が温存され、それが時間と共に金属疲労を起こしたからこそ、シニア右翼は生まれたのである。こう考えるとこの現象は戦後日本特有の現象だという事がわかる。

※本稿は、『シニア右翼―日本の中高年はなぜ右傾化するのか』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。


シニア右翼―日本の中高年はなぜ右傾化するのか』(著:古谷経衡/中央公論新社)

久しぶりに実家に帰ると、穏健だった親が急に政治に目覚め、YouTubeで右傾的番組の視聴者になり、保守系論壇誌の定期購読者になっていた――。こんな事例があなたの隣りで起きているかもしれない。
導火線に一気に火を付けたのは、ネット動画という一撃である。シニア層はネットへの接触歴がこれまで未熟だったことから、リテラシーがきわめて低く、デマや陰謀論に騙されやすい。そんな実態を近年のネット技術史から読み解く。