(イラスト:大野博美)

文部科学省による令和元年の特別支援教育に関する調査によると、全国の小・中・高校で通級による指導を受けている人数は134,185人。前年度より11,090人増加しており、平成5年の12,259人から10倍以上と、年々増加しています。
50年程前、まだ発達障害というものが知られておらず、周囲の理解も得づらかった時代。小橋さとみさん(仮名・大阪府・主婦・75歳)は、次男が言葉が遅くて、落ち着きがなく、多動ぎみなのは性分だと思っていました。障害と向き合い、人々に助けられながら生き方を模索してきたさとみさん親子は――。

ひとり遊びが好きなのは《性分》だと思っていた

あれは2歳児健診のときでしょうか。夫の転勤で埼玉県に住んでいた頃のこと。保健所で列に並び、次男の和夫の番を待っていました。「和ちゃん、前向いて」と息子を医師の前に立たせると、先生は聴診器を胸に当てたり、体重の記録やメモに目を通したりしたあと、私にこう言ったのです。「お母さん、子育てに手がかかるかもしれませんが、しっかり頑張ってくださいね。まだはっきりしませんが」。

当時私は24、25歳。2人の男の子の母ではありましたが、何のことかピンとこず、「はい、よろしい。次の方!」という先生の声を背に帰宅しました。

それからしばらくして、朝、長男を幼稚園に送ったあと、テレビをつけながら掃除機をかけていたときのこと。当時はまだ聞き慣れなかった「自閉症児」の特徴が、画面に映し出されていました。

見てみると、10項目のうち7、8個が和夫のことかと思うくらいピタッと当てはまっていたのです。言葉が遅くて、落ち着きがなく、多動ぎみ――それらは次男の性分だと思っていたのですが、不安が膨らんでいきました。

その後、転勤で茨城県へ。児童相談所に連絡し、専門家と面談をしました。指導員と遊ぶ和夫の様子をガラス越しに眺めながら、「まだ小さいからはっきりしたことは言えませんが、自閉症の可能性は考えられます。なるべく毎日の生活に刺激を与えるつもりで育ててください」とおっしゃいます。

確かに、絵本を一緒に見ようとしてもひとりで見るのが好きだったり、決まった音に反応して耳を塞いだり。「これからいろいろ覚えていくのだから」と、次男の性分と捉えたい思いもありましたが、幼稚園に通う年齢になっても出てくる言葉は単語のみでした。

電車の絵を見て初めて「ゴッゴー、ゴッゴー」と言ったときは、慌ててテープレコーダーで録音したほど嬉しかったけれど、遅れを感じていたのも事実。

小児科の医師に「先生、何がこの子の薬になるのでしょう?」と尋ねても、返ってくるのは「今はまだこれといった薬はないんでねぇ。毎日いかに刺激的に過ごすかが大事だなぁ」という答えぐらいでした。