撮影:松蔭浩之
現在、NHK連続テレビ小説『なつぞら』で、ヒロインの祖父代わりとしてその成長を見つめる柴田泰樹役を好演している俳優の草刈正雄さん。その役柄を『アルプスの少女ハイジ』の「おんじ」と重ね合わせた視聴者からは、「泰樹おんじ」「草刈おんじ」と親しまれ大人気だ。一昨年には、60代半ばで、初の写真集を発表して話題となった。デビュー50周年を来年に控えて、再ブレイクを果たした今、何を思うのか(構成=平林理恵 撮影=松蔭浩之)

下町の床屋役が役者人生の転機に

こういう時期がくるとは思ってもいなかったので、自分でも驚いています。最近、役者冥利につきる役をいただけるようになって、嬉しくてたまりません。少し前なら「おじいちゃん役」がもらえるなんて思ってもみなかったですから。

今は朝ドラの『なつぞら』の撮影で、北海道と東京を行き来する日々。視聴者の方から好評をいただいて、僕の出番が増えたとか。ありがたいことです。広瀬すずさんら『なつぞら』の役者さんとは、本当の家族みたいにリラックスして撮影させてもらってます。

幅広い役にチャレンジするきっかけとなったのは、2014年、三谷(幸喜)さんに『君となら~Nobody Else But You』の再演の舞台に呼んでいただいたことでしょう。

僕に割り振られたのは、下町の床屋の親父の役。その2年前に角野卓造さんが演じられた役なのですが、それがもうハマリ役で。それに僕をキャスティングするのか、という驚きもあったし、大丈夫かなという不安もありました。でもそれ以上に喜びが大きかった。

あの頃、僕は自分のバタ臭い顔とか、若い頃の「二枚目路線」からいつまでも脱却できずにいることが、コンプレックスだったんです。だから、こういう意外性のある役をやらせてくれる人もいるんだな、それなら挑戦してみようと思い、お受けしました。

その舞台の最中に、僕の楽屋に三谷さんが突然現れて、「再来年の大河で『真田丸』をやるんですけど、真田昌幸をやってもらえませんか」とおっしゃったんです。思ってもみないことですよ。僕はドラマ『真田太平記』(1985~86年、NHK)で、昌幸の次男の幸村を演じました。そのときの昌幸役は丹波哲郎さんだったんですが、演技がすばらしく魅力的でね。あの役を自分ができると思うと、心が弾みました。

『真田丸』の脚本を読んですごいと思ったのは、従来の戦国武将のイメージを完全に覆していること。僕の演じる昌幸は、息子2人を呼んで「おーい、実はなあ、武田は滅びるぞ!」と、好奇心いっぱいの悪ガキみたいに言う。父親らしく武将らしくおごそかに言うんじゃないんですよ。

「ああ、そういうことか」と僕のなかで昌幸像がムクムクと膨らんでいくのを感じました。やるときはやる、でも、ときに息子たちにすがりつく情けないところもあれば、お茶目なところもある、実に人間臭い男。そんな昌幸像が脚本にはきっちり書き込まれていました。だから、僕は脚本の通りに楽しく暴れることができたんです。

丹波さんの昌幸を超える俳優はいないだろう、と僕自身は思っていました。でも、僕の昌幸も評価をいただけたようで、何人かの方から「草刈さんの後に昌幸をやる人は大変だね」と言っていただいて。ああ、あの役を演じてよかった、と心から思えました。