棺の中で最期を考える~自分を知る作業
近年、全国の葬儀社で開催されるようになった「入棺体験」。なかでも、「単なる入棺では終わらない充実感が味わえる」と評判なのが、棺・骨壺デザイナーの布施美佳子さんとグリーフサポート・カウンセリング会社「YOMIInternational」代表の村田ますみさんが主催するワークショップだ。
開催場所は、東京・江東区にある布施さんのアトリエ。足を踏み入れると、ショッキングピンクの布やフリルがあしらわれた、個性豊かな棺が目に飛び込む。「棺は人生最期の個室。だからこそ自分好みのものを選んでほしいんです」と布施さん。「こんなにおしゃれな棺なら、死んでなおテンションが上がりそう。早く入ってみたい!」と、わくわくする私がいた。
ワークショップの参加者は、50~60代の女性が多いという。今回は30~50代の女性4人が集合した。全員が初参加だったが、葬儀関連会社勤務のSさん(30代)は、入棺体験自体は4回目というからびっくりだ。「棺に入ると、負の気持ちをリセットできるんです。私にとって、貴重なセラピー」なんだとか。
最初に、1枚の紙が配られた。「あなたは誰ですか?」と書かれている。「入棺の前に、自分を見つめる時間を作ります」という村田さんの声掛けで、2人1組に。私は40代後半のUさんと組んだ。
質問者と回答者に分かれ、ある種の「自己紹介」を始める。質問者が聞いていいのは、「あなたは誰ですか?」のみ。5分間同じ質問を繰り返し、回答者は思いついた「私」を次々と述べていく。その答えを質問者が用紙に記入し、5分経ったら役割を交代するシステムだ。
私が質問者になると、Uさんは当たり障りのない答えを続けた後、「私は、弟と仲が悪い」と苦笑いして、「もう少し仲良くしたほうがいいのかな?」と、ポツリ。Uさんの本心が見えた気がした。
お互いの質問が終了した後、用紙を交換する。Uさんがメモしてくれた「私」は18個。それをじっくり見つめると、「赤ワインが好き」「先日、しゃぶしゃぶの食べ放題でたらふく食べた」など、表面的な「私」が満載で少々情けなくなる。
続けて、「用紙を裏返してください」と村田さん。そこには「弔辞のワーク」とある。
「これから自分の葬儀を体験しますが、誰にどんな弔辞を読んでもらいたいかを考え、その内容を記してほしいのです。お願いしたい相手は、職場の同僚、ペット、元彼、自分、未来の結婚相手など、どなたでもかまいません。弔辞はある意味、自分に対しての最後のラブレターみたいなものです」
私は、息子を含めた身近な人全員に「私が死んでも葬儀はしないで!」と伝えてある。だから、弔辞そのものがピンとこない。誰にしようか考えあぐねた結果、息子しか浮かばなかった。息子が読む弔辞を私が書くというシュールさ。初めての感覚だ。