棺の中に花を入れていく参加者たちと、初めての体験に戸惑いを隠せない筆者。蓋を閉じ、布施さんが弔辞を読み上げる。棺に納まった姿での写真撮影も好評だとか(撮影:藤澤靖子)

棺の中で考えたこと

ようやく入棺。黒のウールで覆われたシックな棺に納まると、やけに落ち着く。皆が、「お疲れさまでした」「頑張りましたね」などと声をかけつつ、身体の周りに花を添えてくれる。それにしても、複数の人に間近から見つめられる体験など、そうそうできるものではない。「葬儀はしなくても、棺には入るよな。『きちんと死に化粧して』って、親しい人には伝えておかないと」と、ぼんやり考える。

蓋が閉じられると、自分で書いた「息子の弔辞」が、布施さんの感情を込めた静かな声で読み上げられる。「シングルマザーで家事が手抜きのときもあったけど、感謝しているよ。ぼくの友達が遊びにきたとき、いつもご飯を振る舞ってくれてありがとう。誕生日には好物の赤ワインをプレゼントする。一緒に飲もう」。耳を傾けながらふと、息子に褒めてほしい、口にしてほしいフレーズを並べたてていたことにハッとする。

弔辞を読み終えた後の3分間は、暗い棺の中で過ごした。くぐもった声が聞こえる。外にいる人と別世界に置かれた感覚だ。誰かの「武さんは、どんな方でした?」という質問に、「頼りになるライターさんでした」と答える編集者の声。その後も、先ほどの「自己紹介」をもとに私をねぎらってくれる参加者たち。50代後半を迎え、褒められることなどほとんどなくなった私の心がちょっぴり潤う。

思えば、自分への評価を耳にできるシーンは希少だ。そこで誉め言葉が飛び交ったら……間違いなく自己肯定感が高まるだろう。と同時に、どなたかの葬儀の際は楽しい思い出話をし尽くしたい!と、心底感じたのだった。

棺に入った感想は人それぞれだ。「故人を別世界に連れていってしまうイメージだったが、実際は快適だったという方もいれば、棺から出たとたん、『離婚を決めました』とおっしゃった方もいます。これからは結婚で諦めた夢を追うんだ、と。疑似体験でも人生をリセットすると、やり残していることが浮き彫りになる方が少なくないんですよ」と、村田さんは話す。

最後に布施さんが語ってくれたこのワークショップの趣旨に、私は素直に賛同できた。
「『死』に『ハッピーエンディング』という概念を加えたいんです。死は私たちの日常の延長線上にあるのですから、忌み嫌うのではなくきちんと向き合うことで、日常がより豊かになるんだと実感していただきたい」

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約20年前、「死」が自分のすぐ隣にあることを強烈に体感した。3歳からの幼なじみが37歳の若さで亡くなったのだ。涙も出ないほどつらかったあの頃の私に、この2つのワークショップを受講させてあげたかったなぁとつくづく思う。「私の分まで、存分に生きなさい!」という彼女のメッセージを、きっと、もっとすんなり受け止められたはずだから。