作家でエッセイストの横森理香さん曰く「喪服について普段から考えておくことは大事」とのことで――。(写真提供:Photo AC)
厚生労働省の「簡易生命表(令和3年)」によると、2021年の日本人の平均寿命は男性が81.47歳、女性が87.57歳で「長寿」と言えそうです。それでもいつか訪れるのが「親の死」。一方「親の死はただでさえ参るのに、見送る世代も気力体力が衰えはじめている。加えて葬儀に法事、相続など手続きは膨大、それでいて期限付きのものも多いので、めくるめく試練のようなもの」と語るのが作家でエッセイストの横森理香さんです。横森さんいわく「特に喪服について普段から考えておくことは大事」とのことで――。

喪服をどうする?

親の死が迫っているものの、命のあるうちに葬式の準備をするのは縁起が悪いし、亡くなるのを待っているみたいで気が引ける。なので、たいていは亡くなってから慌てて喪服の準備をすることになる。

私は、母が昏睡状態に入ってから、デパートに喪服を買いに行った。母が好きだったヨーガンレールにて、黒のソフトスーツと靴で十万円なり。連れ合いの佐藤先生は事実婚だから喪主になれず、姉が嫁に行っているため、二女の私が喪主を務めることになっていた。

その当時、私が持っていた黒の洋服といえば、コーデュロイの黒パンツ。親友に相談すると、

「いくらなんでもコーデュロイはマズイだろ」

と一喝された。喪主だから、ちゃんとした格好をしたほうがいいと。

ちゃんとした喪服といえば、母が作ってくれた和装喪服が一式あった。これはまだ私が二十代の頃、いつ自分が逝っても恥ずかしくないように、家紋入りの喪服を作ってくれていたのだ。黒帯や黒帯締め、黒草履、バッグまである。

葬式にはこれを着ないと母も無念だろうからと、秋田の宿泊施設まで一式送った。葬儀の支度は佐藤先生と地元の有志がしてくれていたから助かったが、通夜にもお茶目な恰好で登場するわけにはいかない。