5年後、叔母からSOSが。「ねえちゃん(母)が認知症でどうにもならないから、様子を見に行ってやってほしい。カズちゃん(兄)も体調が悪いみたいだし」。正直、母の顔も兄の顔も見たくはない。でも叔母に泣きつかれて、無下には断れなかった。

仕方なく兄に電話をして、親の家で落ち合うことに。チャイムを鳴らすと、懐かしい父の声がする。ドアを開けて最初に目に飛び込んできたのは、下半身が下着だけの母。いつもセットしていた髪はバサバサ、化粧もまだらだ。私のことをわからず、重度の認知症であることは疑いようもない。

98歳の父は頭がしっかりしていて、「久しぶりやな」と朗らかに声をかけてきた。ただ足腰はかなり弱っている。一方の兄は体重が100キロを超え、体調がかなり悪そうだ。自分ひとりの生活すらおぼつかないことは明らかだった。父98歳、母87歳、兄65歳。「この家、まともな人間おらんがな……」とつぶやく。私がやるしかない。

 

押入れから大量のプラスチックトレイが

両親を施設に入居させることも考えたのだが、2人にはほとんど貯金がなく、年金のみでなんとか暮らしていた。父はかなりの額の厚生年金をもらっているはずなのに、母が端から使い切っていたようだ。年金生活になったのだから、身の丈に合った暮らしをすべきだったのに……。施設の入居金など払えるはずもない。

万事休す。ヘルパーさんを利用しながら、私が通うしかないのか。暗澹たる気持ちになっていたら、ある施設のパンフレットが届いた。数日前、念のため資料請求をしていたのだ。開封してみると、その施設は夫婦で入居でき、しかも今ならキャンペーン期間で通常よりも安い価格設定だという。

父は施設を嫌がるかと思ったが、意外にも「入りたい。もうお婆ちゃんの面倒みるの疲れたわ」と言うではないか。とんとん拍子に話が進み、契約。両親の行き先は確保できた。