高校時代はいじめにあい、不登校、転校……

あすかさんが発達障害と診断されたのは20歳を過ぎてから。それまでは障害があることがわからなかったために、人に誤解され、いじめにもあい、そのたびに、自分を否定し、傷ついてきた。

相手の言葉をそのままの意味で受け取ってしまう。興味のあることは何時間でも熱心に取り組む。これも発達障害に特徴的な行動である。たとえば小学生のときのこと。先生に「みんなで校庭の草をきれいに抜いてください」と言われると、次の授業が始まるチャイムが鳴っても、ひとり黙々と草を抜き続けた。探しにきた先生に「何をしているの」と叱られたが、あすかさんにしてみれば、校庭にまだたくさん残っていた草を、先生に言われた通り、きれいになるまで一所懸命に抜いていただけ。

「なぜ先生に叱られたのか、今でもわからない」と言うあすかさん。ただ、「みんなが知っているルールを私だけが知らない」ということは感じていた。そして、「そんな私が悪いんだ」と自分を責め続けていた。

中学校に入ると、父親の単身赴任、いつも一緒にいてくれた2歳年上の兄が他県へ高校進学するなど、環境の変化があった。そうしたことや、みんなと同じようにできないストレスから、解離の発作を起こし、髪の毛を抜くなど、自らを傷つけるようになる。

高校時代はいじめにあい、不登校、転校……。その頃のことを母の恭子さんは、後悔の思いとともに、こう振り返る。

「こだわりが強く、コミュニケーションが苦手なことも“個性”だと思っていたのです。学校ではどの先生からも『優等生』だと言われました。言われたことはきちんとやり、成績もよかった。私の前ではニコニコしていたし、楽しい学校生活を送っているものだと信じていました。実はつらい日々を送っていたのに、そんな自分の気持ちの伝え方もわからず、まわりには何事もなかったかのようにをつくしかなかった。当時の私にはそれがわかりませんでした」

そんなあすかさんの心のよりどころは、4歳のときからずっと習ってきたピアノだった。

「毎日、ピアノに向かいました。ピアノは私の心をわかってくれる、自分の居場所でした」(あすかさん)