心が動きかけた本を求めて

そのようにして十日余りが過ぎたある日、仕事場から家に帰る途中で、町の小さな本屋に立ち寄ってみようという気になった。

『夢ノ町本通り――ブック・エッセイ 』(著:沢木耕太郎/新潮社)

だが、店に入り、新刊本が並んでいる台を見ても、読みたいと思う本が一冊もない。それは、ここが小さな本屋だからではないかとも思った。もっと大きな本屋に行けば、読みたい本が見つかるかもしれない。

そのとき、ふと、何日か前に見た新聞の広告欄に、一瞬だけ心が動きかけた本があったのを思い出した。読みたいと思ったわけではなく、何となく気に掛かったという程度だったのだが、あれは誰の何というタイトルの本だったのだろう。

本屋の棚を茫然と眺めながら思い出そうとすると、タイトルや著者名ではなく、上・二、二〇〇円、下・二、〇〇〇円という定価が浮かんできた。

そうだ、あれは確かに上下二巻に分かれている本だった。

私は思い出しかけたのが嬉しくて、平台にその定価の本を探した。二巻本というと、正面に渡辺淳一の『失楽園』がでんと並べられている。だが、これではない。その横には妹尾河童の『少年H』が並んでいる。しかし、これでもない。

ということは、翻訳物だったのだろうか。翻訳物の棚を見てみると、プーラン・デヴィの『女盗賊プーラン』が入っていた。間違いなく二巻本だが、やはりこれでもない。

日本人の作品ではなく、かといって外国の翻訳物だったという印象もあまりない。あのとき、一瞬、私の眼に留まったのは、誰の何という作品だったのだろう。