が、一口食べて「……まりちゃん、芯をもう少しカットしたほうがおいしいと思うよ」。そして父は、おそろしい一言を口にしたのである。「お母さん、ちゃんと料理を教えてあげなきゃ!」。

地雷を踏むとはまさにこのことである。母はみるみるうちに鬼の形相となり、「私は教えていたのに、この子が覚えなかっただけでしょ!」。私もまったく母に同感である。

結局、私が料理にちゃんと取り組んだのは、結婚して子どもが生まれてから。夫はあの「頭のないエノキ」に呆れた、例の友人だ。私が仕事で忙しいので、食卓に本格的な洋食や丁寧に出汁をとったおでんが並ぶことはない。

でも、半額になったデパ地下のお弁当や、レンジでチンすればOKの冷凍食品の隣には、必ず「緑の小皿」を添えるようにしている。ほうれん草のお浸しも、最初は母のように絶妙な茹で具合を探るのに苦戦した。けれど今では、母が出したことのないワカメの酢の物だって作れるようになった。夫の大好物だからだ。

大学生の娘は言う。「母さんの料理、おいしいよね。私も料理できるようになるのかな?」。すると夫は笑う。「大丈夫、母さんだって昔はエノキを真っ二つにしていたんだから」と。

いつか私も娘に伝えなければと思う。母さんのこだわりは、この「緑の小皿」なんだよ。料理は腕前じゃない、「愛」なんだよ、と。