そのときあたしは、そうだ、こういうときはYouTubeだと思いつき、ラップトップを開いて、「Grassy, grass, grass」というウディ・ガスリーの童謡を探し出した。するとしーちゃん、ふっと泣き止んで、梅雨空のような顔で(そのココロは、いつ降り出すかわからない)画面を見つめた。だからそれをくり返した。座ると泣くので、立ったまま何回もくり返した。三か月の子が何をわかってるかわからないが、そもそも呪文のような歌なのだ。そうするうちにトメたちが帰ってきて、あたしはほんとにほっとしたのだった。

トメから絵本とアンパンマンのDVDを頼まれたので、『くつくつあるけ』『どうすればいいのかな?』『どうぶつのおやこ』といった赤ちゃん絵本を持っていった。

トメ、自分は日本語を勉強させられるのをあんなにいやがっていたのに、しーちゃんに日本語を教える気はまんまん。だから、「すごーい」と「じゃーね」を教えることくらいはきっとできる。

 


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米国人の夫の看取り、20余年住んだカリフォルニアから熊本に拠点を移したあたしの新たな生活が始まった。

週1回上京し大学で教える日々は多忙を極め、愛用するのはコンビニとサイゼリヤ。自宅には愛犬と植物の鉢植え多数。そこへ猫二匹までもが加わって……。襲い来るのは台風にコロナ。老いゆく体は悲鳴をあげる。一人の暮らしの自由と寂寥、60代もいよいよ半ばの体感を、小気味よく直截に書き記す、これぞ女たちのための〈言葉の道しるべ〉。