八月のアメリカ行きは、まずトメのところに。しーちゃんはちょうど楳図かずおの「赤んぼ少女」くらいで、ときどきにやっと笑う。まだまだ小さく、うちの大型猫たちよりはだいぶ軽く、首はほぼすわっているから持ち運びが簡単にできる。

ある夕方、デートしておいでと親たちを送り出した後、あたしはしーちゃんを抱っこして夕暮れの中を歩いた。

家の横に小さな道があり、誰もいない、カリフォルニアには見ないようなマツだのモミだのトウヒだのが生えたトレイルに続き、あたしはしーちゃんを抱っこして、つらなる丘をどこまでも歩いた。夕暮れに赤ん坊を抱いて荒地を歩く白髪の蓬髪の婆あというのも凄い光景だと思いながら、歩いた。クレイマーがいないのが物足りなかった。

車にもひかれず、熊にもコヨーテにも出会わず、無事に家に戻って、ヤレヤレ腰に来るなと思ったとき、しーちゃん、泣き出して泣き止まなくなった。抱っこしても、ゆらゆらしても、歩きまわっても、だめだ。あたしの黄金のおっぱいならと思って出してみたが、ぜんぜん吸わない。ミルクを飲ませてみたが、飲むだけ飲んで、ぜんぜん眠らない。

あたしは歌という歌を歌い尽くした。歌を歌いにここまで来たようなものであった。もう少し大きければ、おえかきや絵本などと手があるが、しーちゃんには何にもない。