仕事で能力を発揮し、管理職に昇進して活躍する妻と、そんな妻を応援して積極的に育児に携わるイクメン夫は今、社会が求める理想の夫婦像のようである。しかし、夫婦が十分にコミュニケーションをとって相互理解に努めなければ、思わぬ亀裂を生じさせてしまう。

子育てに関わることが大切であると理解しながらも、本音の部分ではいまだ、固定的な性別役割分担意識に支配されている男性は少なくない。出世の先を行く妻に対して、敗北感を抱くこともありうるのだ。そして自分から家族と心理的に離れていく──。自分自身のなかにある“伝統的な規範意識”はなかなか変えられない。定年も近づいた50代、60代になって、そのことに気づく人もいる。

 

「家政婦」扱いをし続ける夫にもはや愛情はない

東京都在住の佐々木由美さんには2008年、「婚外恋愛」をテーマにした取材で出会った。それが、結婚している女性が行う不貞行為、つまり不倫であることは紛れもない事実なのだが、当の女性たちは「恋愛」と主張するケースが増えていた。

当時44歳の佐々木さんもそんな女性の一人だったのだが、夫以外の男性と「恋愛」に走った理由が独特で軽い衝撃を受けた。「夫の日常」のせい──。取材対象者の多くが夫の浮気などを理由に挙げたの対し、彼女はそう答えたからだ。

短大卒業後、事務職の仕事を10年近く務め、30歳で本人が「夢だった」という専業主婦の座を射止めた。翌年に長女を出産、その3年後には義母から望まれていた念願の長男を授かった。だが、「長男の嫁の役目を果たした」達成感もつかの間、夫とはセックスレスとなり、自身の気持ちに変化が芽生え始めたのだという。

「夫が『お茶』『飯まだ?』と私をこき使うのが、無性に腹立たしくなってきたんです。妻は家庭のことをこなして当たり前と思い込み、感謝の気持ちなんてこれっぽっちもないんですから……」

気丈に振る舞っていた佐々木さんが、目に涙を浮かべて話す姿を今でもはっきりと覚えている。

婚外恋愛に走った佐々木さんだが、1年あまりでその関係に終止符を打つ。ちょうど、長男が私立中学受験を控えて塾通いなどで忙しくなり始めていたからだ。そしてしばらくすると、今度は公立中学校に通う娘が、いじめが原因とみられる不登校になる。わが子を巡る問題は夫との関係をさらに悪化させる要因となった。

「夫は私に対してだけでなく、子どものことにも無関心で、すべて私任せ。『仕事が忙しい』の一点張りで、キレるとすぐ口にするのが『誰のおかげで生活できると思っているんだ』です」

40代半ばを過ぎた頃、そうつらい心境を語った佐々木さんは、当時すでに旧態依然とした男らしさに囚われている夫に見切りをつけていたのかもしれない。