美大で多様性を実感

アメリカに行けば、生きやすくなる。そんな期待は、見事に打ち砕かれました。日本人特有の平面的な顔立ちに加えてアトピーで悩んでいた私は、容姿の劣等感にさいなまれるように。アメリカ人学生の輪にも溶け込めませんでした。自分がセクシュアリティを隠してオドオドしていたこともあると思います。

ボストンの大学を卒業後、念願かなってニューヨークのパーソンズ美術大学に入学。これが大きな転機となりました。パーソンズには世界中から留学生が集まるし、自由で多様です。ゲイをカミングアウトしている先生や、同性カップルも当然のようにいる。そうした環境の中で徐々に、「ありのままの自分でいいのだ」と思えるようになったのです。

それからは、同性愛者の歴史についての映画を見たり、プライドパレードに参加したりするように。友人にカミングアウトして、メイクをして外出できるようにもなりました。

その後、日本に帰って仏教の修行に入ることになるのですが、これはある経験がきっかけです。それは、美大時代、韓国人の留学生が兵役につくため帰国することになり、みんなの前で最後のパフォーマンスを披露した時のこと。

軍服姿で点呼や腕立て伏せなどをする彼の表情からは、兵役につきたくはないけれど、韓国人としての運命を受け入れるという覚悟が見えました。誰よりも絵が上手いのに、2年も絵を描けなくなるんだ。私は息を荒くしてパフォーマンスをする彼の姿に胸を衝かれました。

翻って私はといえば、同性愛者であることを両親に隠したままだし、自分のルーツとも言える仏教からも逃げています。そんな自分に自己表現ができるのか。悩み抜いた末、24歳の私は2つの決心をしました。

まず、両親にカミングアウトし、ありのままの私を知ってもらうこと。それから、僧侶になる修行をすること。そこを乗り越えないと、「私が好きな私」にはなれないと考えたのです。