時事問題から身のまわりのこと、『婦人公論』本誌記事への感想など、愛読者からのお手紙を紹介する「読者のひろば」。たくさんの記事が掲載される婦人公論のなかでも、人気の高いコーナーの一つです。今回ご紹介するのは東京都の90代の方からのお便り。スーパーでの会計時、お財布の中のお金が足りないことに気が付いて慌てていると――。
11円に感動して
先日、スーパーでマヨネーズを買い求めた時のこと。お会計時に財布をのぞくと、なんと11円足りない! 店員に「お金をおろしに行ってきます」などと言っていると、後ろから言葉もなくさっと、11円が差し出された。
振り向けばひとりの男性。頭が真っ白の状態で会計を済ませ、思わずマヨネーズを額の前に掲げて「ありがとうございます」とお辞儀をした。一瞬の出来事だったが、私にとってそれは最高の感動であり、黄金の光のような経験になったのだ。
「貧乏」と「父の一言」が私の人生の根っこだった。小さい頃、私は父に「貧乏は嫌です」と泣きながら訴えたことがあった。すると、「お父さんは一生懸命働いているのだけれどね」と、やさしく私の手を握りしめてくれたのだ。
この経験をバネに、私は80歳まで現役で家庭と仕事の両立を貫き通した。これは、生まれながらの勝ち気な性格と忍耐強さのおかげだと思うし、そんな自分を誇りに思う。しかし私には、大事なものが欠けていた。それは、弱い人に寄り添う思いやりの心だったのだ。
これまで気づけなかった悔いもあり、「11円をくれた男性」への恩返しのつもりで、道路の掃除を始めた。落ち葉掃きと、煙草の吸い殻拾いだ。そのおかげか、最近吸い殻は見当たらない。私は勝利をかみしめている。