梅酒の飲み口

私自身もネガティブな言葉を使ってしまうことがあります。あるインタビューがきっかけで私の発言したネガティブワードが私の名前とともに検索窓に上がるようになってしまいました。内容としては決してネガティブな内容ではなかったのですが、使用した単語が強かったようでして…。焦りましたね。

自己分析の声としては「悠木さん、人がマイナスのワードに反応するというのを頭のどこかで知っていたのに使ってしまったんですよね?」「…ハイ、そうです」というような自分の中での反省会がありました。特定のネットに載ったマイナスの言葉は、拡散しやすい。人はセンセーショナルなものに引かれるし、防衛本能からネガティブな情報に飛びつきやすいこともわかります。だからこそ、ポジティブな言葉で表現できる時は可能な限り、ポジティブに言い換えてお話しするように心がけるようになりました。

自己分析をしていくと、人間というのはいろんな矛盾する人間性を持っていることが見えてきます。そこから、人間は人様に見せたい部分をプレゼンしているだけで、見えている側面が全てではないということに気がつきました。たとえば私自身も、友達がたくさん欲しいと思いつつ、それには多大なコストを必要とする不器用な人間。矛盾している特徴を二つとも内包しているんです。だからたとえ「合わないな」と思った人でも、合わない方の特徴が今のところ表面に出ているだけで、心の底から全く理解できない相容れない人、と思ったりはしないわけです。

芸能界でお仕事をするということは、どこか「幸せでないといけない」とされています。うなだれているのではなく常にご機嫌である必要があって、そうあるためには、心の中のスキルが必要とされる。そんな時、自分をなだめ、慰めることに自己分析癖が役立つわけです。自分の機嫌をとるやり方というのはどんな立場、どんな職業であっても使えるのではないでしょうか。

このエッセイは声優というお仕事に興味がない人にも読んでいただけるように“梅酒の飲み口”を意識しました。お酒が得意じゃない人でもクイッといけちゃうような。お気軽に手に取っていただいて、もしその内容がちょっとでも誰かの参考になったりしたら本当に嬉しいです。

悠木碧のつくりかた』(著:悠木碧/中央公論新社)

『魔法少女まどか☆マギカ』鹿目まどか
『戦姫絶唱シンフォギア』立花響
『ポケットモンスター』アイリス
『ヒーリングっど♡プリキュア』花寺のどか/キュアグレース
『スパイダーマン:スパイダーバース』グウェン・ステイシー/スパイダー・グウェン
『薬屋のひとりごと』猫猫

様々な作品で活躍する人気声優・悠木碧のファーストエッセイ集!

秘密の友達がいた幼少期、学業と仕事の二足のわらじで駆け抜けた学生時代、声優業への情熱、推しへの愛に、衝撃の前世まで?
2003年のデビュー以来、現在も声優業界の第一線を走り続ける著者が、30歳を迎えその半生を振り返った書き下ろしエッセイ全20篇。
巻末には、同期声優、寿美菜子氏&早見沙織氏との特別鼎談を収録。