記号を見てどんな風景を想像するか

国土地理院の現行地形図(インターネットでは地理院地図)における温泉記号は、同院が定めた「平成25年2万5千分1地形図図式(表示基準)」によれば、「温泉法に基づく温泉及び鉱泉をいい、主要なものを表示する」としている。

温泉法では泉源における水温が25度以上のものを「温泉」と定めているが、地形図の記号では図式で定める通り鉱泉も含む。

図式では温泉マークを表示する位置も決められていて、原則として「主要な泉源の位置」である。厳密にはマークのうち弧を描く湯壺の下辺中央に実際の位置(真位置)がくるように配置する決まりだ。

温泉街のあちこちで湧出している場合などは、律儀に全泉源に記号を載せていたらマークだらけになってしまうから「主要な泉源」に限っている。

また、離れた泉源から引いている場合は「浴場の位置」に表示することもできる規程がある。たとえば富山県の宇奈月(うなづき)温泉は6キロほど黒部川を遡った黒薙(くろなぎ)温泉から湯を引いているが、そんな事情の宇奈月にも温泉マークが記されている。

ついでながら源泉は90度台とアツアツで、この距離を通過するうちに60度台まで冷めるのでちょうどいいらしい。

ちなみに日本以外でこの記号が温泉として一般的に使われているのは台湾と韓国だ。どちらも日本統治下で広まったものだろうが、温泉文化のあり方は違うから、この記号を見てどんな風景を想像するかは各国で微妙に異なるはずである。

そのあたりの差異をお互い楽しみたいものだ。

 

※本稿は、『地図記号のひみつ』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。


地図記号のひみつ』(著:今尾恵介/中央公論新社)

学校で習って、誰もが親しんでいる地図記号。地図記号からは、明治から令和に至る日本社会の変貌が読み取れるのだ。中学生の頃から地形図に親しんできた地図研究家が、地図記号の奥深い世界を紹介する。