南硫黄島。本州から南へ1000km以上離れたところに存在する(写真提供:Photo AC)
島全体が天然記念物に指定されている南硫黄島。ここは無人島であり、特に優れた原生自然環境を維持しているため「原生自然環境保全地域」にも指定されています。この南硫黄島について「人類はこの島の自然を守ったのではなく、どちらかというと手が出せなかったのだ」と語るのは、鳥類学者の川上和人さん。今回は、川上さんが南硫黄島に自然環境調査で訪れた際のエピソードを紹介します。川上さんいわく「南硫黄島は東京都の島ではあるが、本州でこの島から最も近い場所は東京ではない」そうで――。

和歌山からは見えません

私たちが訪れた南硫黄島は、本州から約1160km南に離れた無人島である。

まずはこの島がどんな場所なのかを紹介しよう。

南硫黄島は火山列島の最も南にある島である。火山列島は硫黄列島とも呼ばれており、ほかに硫黄島と北硫黄島が含まれている。硫黄島は、第二次世界大戦にて激戦地となったことで有名なので、聞いたことのある人も多いだろう。

火山列島から北に150km離れた場所には小笠原群島がある。こちらは有人島の父島や母島を含む島々だ。火山列島と小笠原群島といくつかの小島を合わせると、小笠原諸島となる。

ちなみに、南硫黄島は東京都の島ではあるが、本州でこの島から最も近い場所は東京ではない。

東京は東京湾の奥に引きこもっているからだ。それならば、房総半島か伊豆半島あたりかと思うだろう。私もそう思っていた。

しかし、きちんと測ってみるとこれらの場所は南硫黄島からの最短の場所ではなかった。なんと、本州で南硫黄島に最も近い場所は、和歌山県の潮岬(しおのみさき)だったのだ。先に書いた本州からの距離は、この間の長さである。

そういうわけなので、万が一にも南硫黄で悪漢に捕まり海に突き落とされて本州まで泳げと言われたら、真北ではなく北北西に進路を取ることをおすすめする。きっと生存確率が少しだけ上昇するはずである。