義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。
7
「河合さん」
田代住職が言った。「うちの寺で、警察沙汰はやめてください」
電話を手にした河合が言い返す。
「警察を呼ばなきゃならないようなことをしたのは誰だ」
「私はね、話をしてもらおうと思っただけだ。それを、あんたらはハナから喧嘩腰だ」
「当たり前でしょう」
山科が言った。「こんな連中と話をしろというのが、どうかしてるんだ」
田代が言う。
「こんな連中という言い方はないでしょう」
「言って何が悪い。そういう言い方をされる人たちでしょう。ねえ、藤堂さん」
話を振られた藤堂は困り顔だ。
河合も藤堂のほうを見る。
「警察、呼んでいいですね」
藤堂が戸惑った様子でこたえる。
「あ? ああ。そうだね」
田代が藤堂に言う。
「あんたまでそんなことを言うのか」
すると、藤堂は言った。
「住職。二人の言うこともわかります。これはいけない。話の相手がこういう人たちだとわかっていたら、私たちは来ませんでしたよ」
「だから言わなかったんだよ。話も聞かずに拒否するってのはないだろう」
すると、阿岐本が言った。
「みなさん、ご住職を責めないでください。私がご住職にお願いしたことですので……」
阿岐本が何か言うたびに、河合と山科はびくりと反応する。
河合が確認するように藤堂に言った。
「警察呼びますよ。いいですね」
藤堂は煮え切らない様子でこたえた。
「ええ、お二人がそう言うのなら……」
河合が電話のボタンをタッチした。一一〇番通報だ。
一一〇番通報されるような事件は起こしていない。こういう場合は、#九一一〇番で、警察署に相談すべきだと、日村は思った。
ヤクザは自然と警察のことにも詳しくなる。しかし、一般の人はそんなことを知らないから、すぐに一一〇番してしまう。
「あ、暴力団員が近所の寺にいるんですが……。ええと……、話をしたいと言ってるんです。あ、いえ、暴力は振るっていません。強要されたというか、それはこれから……。はい、え? 身の危険ですか? ええと、それは……。ええ、そうですね。危険を感じます。はい、はい……。はい、待ってます」
途中からしどろもどろだった。
一一〇番に応答する係員は、事件か事故かを尋ねる。そして、事件ならばどういう事件かを詳しく質問する。
事件など起きていないのだから、質問されるうちにこたえに困ってくるのは当たり前だ。