観光は「亡国」、それとも「立国」になるのか
訪日外国人、いわゆるインバウンドの数は右肩上がりで増加。2018年には11年の5倍となる、3119万人まで達しました。
その後、コロナ禍で一時減少したものの、日本政府観光局(JNTO)によると、2023年10月の時点で、単月でコロナ前の水準を超えたとされます。 訪日客数の回復に伴い、消費も急回復。観光庁によると、7~9月の消費総額は1兆3904億円と、四半期で最高を記録したそうです。
一方、著者の一人、アレックス・カーは80年代から観光産業の可能性を予見し、京都の町家や、地方の古民家を一棟貸しの宿泊施設に再生する事業を実践してきました。
08年には国土交通省から「VISIT JAPAN 大使」の任命を受け、その趣旨の通り、外国人旅行者の受け入れ態勢に関する仕組みの構築や、外国人に対する日本の魅力の発信を行っていました。
つまり、観光振興の太鼓をずっと叩き続けたといっていい。インバウンドの"促進役"という自覚は今にいたるまで変わっていません。
しかし、近年の日本は観光客が急激に増加したことにより、いたるところでオーバーツーリズムともいうべき現象が引き起こされるようになりました。それらの実情を見るにつれ、「観光立国」どころか、「観光亡国」の局面に入ってしまったのではないかとの懸念を抱くようになっています。
オーバーツーリズムを最も顕著に見ることができるのは、日本を代表する観光都市、京都です。
アレックス・カーは70年代後半から京都市の隣にある亀岡市を拠点に、日本で暮らしています。京都の町と自然が好きで、時間を見つけては、お寺や神社、路地裏を散歩していました。古いお寺に宿る美しさ、人々が受け継いできた町並み、静謐な自然景観など、神や神道の精神性を感じる時間を、とても大切に思っていました。
しかし清水寺、二条城といった"超"の付く名所だけでなく、以前は閑静だった京都駅南側のお寺や神社でも、今は人が溢れています。