コロナ禍を経た日本は再び「観光亡国」への道を歩んでしまうのかーー(写真提供:Photo AC)
新型コロナで減った訪日外国人観光客も今や急回復。日本政府観光局(JNTO)によれば、2023年10月の訪日客数は、コロナ流行前の19年同月を既に上回ったそう。しかしその急増により、混雑などのトラブルが再び散見しています。「オーバーツーリズム」という言葉も今や広く知られるようになりましたが、実際その影響に悩まされている日本に足りないものとは? 作家で古民家再生をプロデュースするアレックス・カー氏とジャーナリスト・清野由美氏が建設的な解決策を記した『観光亡国論』をもとに、その解決策を探ります。

日本が抱えている社会課題について

なぜ、日本には観光産業が必要なのか? 日本が抱えている社会課題に基づいてお話ししていきましょう。

戦後の高度経済成長を背景に、前世紀の日本ではベビーブームや地方から都会への労働力の移動が起こり、都市部では「人口増加」と「住宅不足」が大きな社会課題でした。

しかし21世紀に入ると、社会は少子化、高齢化にさらされ、経済も成長速度を落としていきます。課題は「人口減少」「空き家問題」と、対極のものになりました。

[図表1]は、世界銀行が調査している、日本の農村部人口の推移です。1975年から2000年まではほぼ横ばいでしたが、それ以降、21世紀になってから激しい傾斜を描いて人口が減っていることが見て取れます。

[図表1]日本の農村部人口の推移 出典:World Bank open data, Rural population Japan

とりわけ日本において、農村部の人口減少は深刻な問題を引き起こします。なぜならば、日本のシステムは労働力、エネルギー、食べ物と、生活に必要なすべてを、農村部を含めた地方に依存しているからです。

都市民の暮らしを支えている地方と農村部が凋落するとなれば、経済の中心である都市もそれに伴って力を落としていくことは必至です。

さらに[図表2]は、野村総合研究所が2018年6月に発表した日本の空き家数と空き家率の推移と、2033年時点までの予測値です。

[図表2]総住宅数・空き家数・空き家率の実績と予測値 出典:実績は総務省「住宅・土地統計調査」より。予測値は野村総合研 究所

国の基幹統計調査である住宅・土地統計調査(令和5年)によると、2018年の時点で全国の空き家は848万9000戸となっていますが、図表3の推移で行くと、 33年には空き家数は2000万戸近くにまで達することが見込まれています。

人口減少と空き家問題は、間違いなく日本が抱える大きな課題です。その要因は複雑に絡み合っており「これをやればすっきりと解決します」という、即効性のある対策はなかなか生み出しにくい。しかしその中にあっても、成長余地が十分に残された観光産業の育成は、日本にとって数少ない「救いの道」といえるのです。